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執筆者 衣笠 俊之 | 1月 2019年

昨年は格別 のご引き立てを賜り御礼を申し上げます。本年もウイリス・タワーズワトソンのリタイアメント部門一同、皆様にご満足いただけるサービス提供を心がける所存です。何とぞ昨年同様のご愛顧を賜わりますようお願い申し上げます。
Retirement
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さて新たな年を迎え、政治や経済、社会に関する様々な見通しや将来予測を各種媒体で見聞きするシーズンになりました。2019年の経済動向について国際機関やシンクタンク、エコノミストが行うデータの裏付けと深い洞察に基づく将来の経済予測は、傾聴に値するものです。しかし数多くあるこれらの景気や経済に関する予測を「当たる」か「当たらない」で評価すれは、結果は概ね厳しいものになるのではないでしょうか。

将来の社会保障政策の検討において欠かせないものの一つに人口動態に関する将来予測があります。人口動態に関する推計は比較的精度の高いものとされていますが、高齢化など過去の人口動態の予測が示してきた将来は、これまでのところ少しずつ着実に現実化しているように感じられます。世界的な平均寿命の伸長のトレンドは今も継続しており、日本はそのトップランナーの一人です。

長寿化が進む中、公的年金制度など社会保障制度の持続可能性の担保は喫緊の課題です。各国も年金制度の改革に取り組んでおり、日本も例外ではありません。特に最近、給付水準の引き下げ、掛金負担の増加、支給開始年齢の引き上げなどに関する議論を頻繁に耳にするようになり、関係者の検討がより具体化・先鋭化しているように感じられます。2018年2月には「高齢社会対策大綱」が閣議決定されました。その中で70歳を超えても年金の繰り下げ受給を選択できるよう検討を求めていますが、これを契機に高齢者就業の拡大が重要な政策課題として浮上しています。歴史的には、公的年金の支給開始年齢の引き上げが行われ、それを追いかかる形で高齢者雇用政策が実施する流れは過去にもありました。70歳以降での年金受給を可能にすることは、今後のさらなる支給開始年齢の引き上げの布石と見ることもできますし、それに応じて高齢者雇用政策が促進・実施されれば、企業にも対応が求められることでしょう。

平均寿命が伸び公的年金の給付の負担が増える一方で、健康寿命にも伸長が見られる点は生産年齢人口の引き上げ余地の観点から朗報です。社会保障制度を持続可能なものとするため掛金負担の担い手を増やす政策が実施されることは必然的な帰結です。企業は今後、労働関連法制の改定などにも後押しされながら高齢者の就業の受け皿の提供を求められる公算が高く、定年年齢や再雇用制度の見直しなどの比較短期的な課題への取り組みも必要となるでしょう。

今後の企業活動を支える人材マネジメントを考える際、今後さらに進展する高齢化と若年層の労働人口減少への対応に加え、人々の働き方の多様化や企業活動のグローバル化、テクノロジーの発達にどのように向き合うかの視点は非常に重要になります。企業活動を担う人的資源として、非正規社員、外国人労働者(高度・非高度外国人材)、人件費の安い海外への業務のオフショアリング、ソフトフェア投資による業務の効率化、バーチャルな知的労働者(RPA: Robotic Process Automation)の活用は、これまでの国内採用の正社員を働き手の主体とする考え方からの脱却を促すことになると思われます。

仕事や働き方の変化に伴う雇用の分散化・多様化が進む中で、報酬制度や福利厚生制度など人材に対する処遇のあり方も変化していくでしょう。福利厚生制度の中でもとりわけ退職給付制度はその設計において長期的視点に基づく検討が不可欠です。依然として日本の企業に少なからず見られる入社から定年まで長期の正社員の雇用契約を前提とした制度ではなく、フューチャー・オブ・ワーク時代の退職給付の検討が必要になるでしょう。

図: 今後の退職給付制度の検討要素
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リーダーシップに求められる要件

翻って、日本企業の退職給付制度運営は今後どのようになっていくでしょうか。最近、日本を代表するグローバル企業が2019年中に確定給付型の年金制度から全面的に確定拠出年金に移行するとの報道がありました。年金債務の圧縮や年金に係るリスク削減を狙った確定給付型年金(DB)から確定拠出年金(DC)への移行は世界的に見られる傾向です。日本ではDC法上の制約(低い拠出限度額、60歳までの引き出し制限)などもあり、大企業においてもDB制度が存置されているケースが見られますが、DC化の傾向は今後日本においても継続するでしょう。

その一方、欧米などDC化が比較的進んだ国々で、年金制度のガバナンス上の課題としてBenefit Adequacy(社員の退職給付の十分性)やFinancial Wellness(社員の財務的な健康)など従業員のエンゲージメント向上に関する事項の重要性が認識されてきていることは注目に値します。日本の確定拠出年金においても、元本保証商品への投資割合が非常に高いなどの問題を背景にDC関連法令の改定が進められていますが、DC制度のガバナンス強化は今後の課題の一つとなるでしょう。

企業にとって最適な退職給付制度が何であるか(DB or DC)は企業の人事・財務政策と大きな関連があります。諸外国の年金に関する動向として、DBからDCへのシフトによる年金リスクの削減と従業員へのリスク移転のトレンドが根強くある一方で、「投資判断を完全に個々人に任せるより、企業が主体となって年金運用を行う方が全体として効率的」との考え方もあり、DBとDCの中間の特徴を併せ持つ制度の導入や検討も進んでいます。オランダにおけるCollective DC (集団型DC)、カナダのTarget Benefit Plan、英国のDefined Ambition Plan、Collective Individual DCなどはその流れを汲むものと言えます。日本においてもこれら諸外国の制度を参考に年金法の改正が行われ、2017年1月よりリスク分担型年金の導入が可能になりました。厚生労働省の統計によると2018年11月までに6件のリスク分担型企業年金が導入されていますが、2018年には大手IT企業が退職給付の一部として導入した事例が注目されました。これらの年金制度の運営にはこれまでのDB、DCとは異なる制度運営とガバナンスが求められそうですが、企業年金における新たの選択股の一つとして今後の動向が注目されます。

高齢化や働き方と雇用の多様化、年金関連法令の改正など、退職給付制度を取り巻く外部環境の変化への対応として企業が取り組むべき課題の共通項が見える一方で、会社が置かれる状況は各社様々です。業種、業態、企業規模、営業活動の拠点の違いにより人材供給のニーズが大きく異なる点や、過去の景気変動やそれに伴う採用人数の多寡が現在の人員構成に歪を生んでいる現状から、将来のあるべき姿への移行にあたって企業によって全く異なる解決策を必要とするかもしれません。また、企業が退職給付の器として採用する制度は会社の人事・財務政策によっても違ってくるしょう。

2019年はこれらの課題に対する企業内での検討がより進展すると予想されます。ウイリス・タワーズワトソンのリタイアメント部門が皆様方のご検討の一助となれば幸いです。

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