2018年を振り返ってみますと、大いなる変化と普遍性の存在に気づかされます。産業界における技術革新に伴う変化、少子高齢化という人口動態の変化や、働き方改革などがもたらす様々な変化やチャレンジは言うまでもありません。他方、昨年から年をまたいだ森友学園をめぐる文書改ざんと加計学園問題、私立医大の不正入試、大学スポーツ界の不祥事。そしてとどめのように12月初めに起こったゴーンショックなど、数多くの不正とハラスメントがテーマとなって紙面を賑わわせた年でもありました。
局面の異なるこうした事象の中で共通していることは、公正さ(フェアネス)と説明をする責任の重要性です。皆様の企業の行動規範やバリューでも謳われていると思われますが、どのようなレベルのリーダーに対しても、また社員に対しても、公正であることと説明をする責任の重要性、公正でありきちんと説明ができる資質と能力が問われた一年であったと思います。
フェアであること。それはいつの時代にも、リーダーにとって重要な資質であり、他者からの信頼を得、他者との信頼関係を築く礎です。フェアネスというと、評価や結果の公平性にばかり目が行きがちですが、フェアネスには4つの側面があると考えられます。一つ目は、“プロセスの公平性”。何をどのような判断基準で考えるのか、誰がどのように決めるのか、そしてそれはどのようにフィードバックされるのか。そうしたプロセス自体が、相手から見たフェアネスを形作ります。二つ目は、“対応の公平性“。相手が「きちんと自分に向き合っている。自分を尊重し、対等の存在として大切に扱ってくれている。」という感覚を持つことのできるインターフェースのあり方も、フェアネスという認識を形成する重要な要素です。三つ目は“説明の公平性”。自分にとって耳障りのよいことだけでなく、ネガティブなフィードバックやデメリットもきちんとファクトベースで説明がされる、判断軸が示される、あっちではこう言い、こっちではああ言い、ということがない。論理的で一貫した誠実な説明はフェアネスを大きく左右する要素です。そして4つ目は“結果の公平性”。一人ひとりが感じ方、受け止め方の違う人間であり、“結果の公平性”をあまねく担保することは、極めて難しいと言わざるを得ません。そうした中で、“プロセスの公平性”、“対応の公平性”、“説明の公平性”という普遍的な事柄の重要性は、現在という時代の中でさらに重みを増していると考えています。
現在は、ビジネスにおいて、人材や組織のマネジメントは非常に難しい時代です。言い換えれば、フェアであり、説明を尽くすことの難易度も高いということです。ここでは現在という時代の持つ特性を2点ご紹介したいと思います。
現在、定年再雇用や雇用延長などもあり、一つの企業の中に、ポスト団塊の世代からジェネレーションY、あるいはZといわれる世代までが同居する初めての時期といわれています。世代の違いは良い悪いではなく、キャリアや成長に対する考え方、モチベーションやエンゲージメントのファクターの違いを生み出します。今後、ジェネレーションYあるいはZと呼ばれる世代を惹きつけ、引きとめ、成長を支援するには、マネージャーやリーダー層が自分達とは異なる彼らの考え方を知り、受け止め、相互にキャッチボールのできる対話や指導の“術”を身に付け、向き合う準備をすることが求められているのです。 (図1)
図1:現在は4世代が組織に共存する初めての時代
~世代の違いが報酬・人材マネジメントの難しさを助長~
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第四次産業革命といわれる昨今、AIやロボテックといった技術革新が事業モデルを大きく変えつつあり、過去の成功が次のイノベーションの足かせとなるという状況が散見されます。かつて自社の良さとされていた風土が、過去の成功体験とともに、トランスフォーメーションを阻害する例は枚挙に暇がありません。デジタル化に関するナレッジや習熟は、世代の差を更に広げる方向に作用しており、これからのマネージャーやリーダーはこうした情報技術の革新と無関係ではいられません。これまでの成功体験や知見だけで勝負できる時代は終わり、どのようなポジションであれ、私たちはスキルの学び直しが求められています。と同時に、これまで組織には無かったようなスキル、発想、行動様式を取り入れることが不可欠で、そうした新しいもの、異なるものに対してオープンで、これを受け止め巻き込むことができるインクルーシブリーダーシップが問われる時代となっています。ダイバーシティ&インクルージョンは、女性活用といった枠を軽々と超え、リーダーシップの主要な要件であり、リスクにもなりつつあるのです。
コーポレートガバナンス・コードで示された“Comply or Explain”は、本来、投資家との対話と相互理解を生み出すためのものであり、ここ数年の動向の中で、Comply(原則の実施)であってもExplainが必要ではないか、むしろどのように開示をするのかという“説明”こそが重要なのではないか、という声も高まってきています。このあたりは、弊社の専門チームであるコーポレートガバナンス・アドバイザリーグループに譲りたいと思いますが、組織においても個人であっても、公正さと説明をする責任は、2019年にその重要性を高めると考えます。
2019年も、皆様の人材と組織の持続的な成長を支援し続けられるパートナーとなれますよう、尽力してまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。