一方、欧米はもとよりアジア各国における製造拠点では、火災保険と同時に利益保険を購入されることは既に一般的であると認識し、多くの日本企業の製造拠点におかれても、同様の状況と理解します。また、これまでの多くの財物保険における保険金求償のケースを振り返り、修理費や代替費用を主とする火災保険金よりも、中断期間における損失である利益保険金の保険金受取額の方がより大きいケースが多く見られます。 これは、事故発生時に、消防局などへの届け出や再開までの許認可などや、外国人を巻き込む事故対応の時間軸が、日本よりも一般的に長く掛かることが要因ではと考えます。
利益保険について改めて整理しますと、企業が営業・製造を行っている建物や設備・機械等が火災、爆発、風災、水濡れ、破損などの偶然な事故により損害を被った場合に、営業・製造が休止・阻害されたために生じた喪失利益を補償する保険です。また、不測かつ突発的な事故により構外からの電気、ガス、水道等の供給が停止した場合の損害も特約により補償されます。
その補償項目としては、選択されたてん補期間(Indemnity Period)における売上高(売上高‐製造原価=売上総利益 Gross profit)*が復旧するまでの期間について補償します。
少しわかりにくいのは、慣習として、売上高=売上総利益(Gross Profit)と呼称することです。
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日本と同様に、売上高(Gross Profit)または生産高(Gross Earning、後述)をベースに保険金額を設定します。一般的には、申告される売上高または生産高の数値に加えて、各企業でそれぞれ使用されてい る費目のブレークダウンを申告いただき(所定の申告シートの活用も可)、変動費を差し引き必要となる保険金額を保険ブローカーとして試算し保険会社に提示しています。
ただし日本と異なるのは、約定てん補率のある縮小てん補方式を採用される企業、契約は少なく、基本的には約定てん補期間に応じて設定します。また保険証券で設定する保険金額は、保険期間が満了した後 の最大補償期間までの月数分も含めて検討する必要があり、結果として予想総利益よりも大きくなることがあります。つまり保険期間の満期時に損害が発生した場合でも、その後に渡る利益損失や固定費が 補償されるこ ととなり、売上上昇局面では、上限となる保険金額の設定は慎重に対応することが必要です。
暫定方式で契約し、満期時には確定数値を申告し確定精算する方式と、契約時の申告数値のまま、一定金額までの範囲であれば確定申告不要という方式もアジアでは多く見られます。ただし、この方式も一定規 模以上に売上が上昇する局面では慎重な対応が必要です。一般的に、日系保険会社では毎年の暫定確定精算を日本と同様に求めて います。
尚、利益保険における用語は通常の会計上の用語と異なるため、契約時にそれぞれの顧問会計士と用語の定義を確認することが肝要です。
保険証券では総利益は以下のように定義されます:
会計上の限界利益と同義となります。売上高の減少、そして固定費の継続的な支払いは、更なる販売取引の損失を増加させる影響も予想されます。
また在庫調整金額が考慮されている理由は、企業は余剰在庫がある場合は在庫を増減することで、一般的には利益 率を減らして過剰在庫を減らすことで、一定の利益を捻出することが可能ですが、その場合に掛かる追加費用を補償するかどうかが課題となることがあります。
失った生産額からコストセーブされた経費を差し引いた金額を補償するものです。Gross Earningの約款は製造メーカーに適している約款であり、サービス業や販売業には適していません。以下の2つの基本的な違いを除けば、基本的には粗利益とよく似ています。復旧後の継続的な損失に対する補償がないことが大きな違いとなっています。
ただしGross Earnings方式は米国で一般的な契約方式であり、アジアでは製造拠点においても多くの保険証券がGross Profit方式となっています。
ところで、それぞれの契約方式に共通となりますが、保険金額設定に重要な項目として変動費、Tax、賃金および追加費用についてご紹介します:
保険で補償されない費用。売上高に直接比例し、売上高に対する一定比率で支払う費用であり、変動費は事故時においては、常に収益の損失に比例して節約されるため、実損はなく、保険をかける必要はありません。
また多くの事業に共通する主要な変動費は調達、購買(原材料、部品、再販用商品)であり、特に小規模事業にとっては重要な項目となります。
一方、大規模事業では主要な経費項目をより詳細に検討することが望ましく、無保険となる費用は売上高に直接比例して減少するものに限定される必要があります。
ただしもし損害が発生したものの、一部の固定費または半変動費が支払を免れた、或いはコストセーブされた場合、その部分の保険金は支払われないこととなり、実際の保険金受取額は当初計算された総利益の損失額より少ない金額となる可能性があります。
以下は調達、購買以外の変動費の例です:
付加価値税として税務当局に申告責任を負う範囲において、利益保険では保険対象外としています。
企業にとって、賃金は主要な支出項目です。以前はシャットダウンの際に、解雇される従業員もあったことから、賃金は利益保険では一部保険であった経緯もあります。しかしながら、各種法律の変更により、現在では従業員により大きな権利が与えられるようになり、総利益項目内で賃金を全額補償することが現代の慣行となっています。
標準的な追加費用は、事故後に発生する追加費用を総利益(Gross Profit)まで補償されるものです。日本の利益保険では、収益減少防止費用、営業継続費用などと記載がありますが、アジアでは総称してAICOWとされるケースが多くなっています。
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日本と同様に、アジアでも実際の保険価額と保険金額の間に乖離があるような場合、その割合によっては比例てん補割合による保険金受取となり(受取保険金額=損害額×保険金額/保険価額(再調達価額または時価))、損害額を満額受け取れないケースが発生してしまいます。アジア各国ではこの保険金設定割合(General Average)が異なるため、保険金額設定の際には注意が必要です。
日本とは異なり、アジアには再調達価額や時価を目安として設定する簡易評価基準がありません。それを避けられたい場合、弊社ではブローカーとして鑑定評価(Valuation)サービスを行っています。
利益保険の保険金請求手続きは複雑であり、慎重な対応が必要です。またその対応に掛かる、罹災企業の担当の 方々への多大な工数や時間も懸念されます。WTWアジアでは社内にフォレンジックアカウンタント(法廷会計士)がおり、保険契約者に代わり保険金求償に関する様々な計算などの準備を行い、結果として主体的な保険会社との交渉、迅速な保険金支払いが可能となります。その起用の費用はこの特約を付帯することで、保険金から支払われます。
日本企業におかれては、事故時に利益保険保険金請求に関する各種情報を収集する際に、罹災された工場内における多岐に渡る担当部署からの情報収集、社内、社外販売に関する複数の損失データ、また保険会社やアジャスターからの異なる試算データなど、多大な検証に工数が掛かります。主体的なクレームハンドリングが肝要と思料します。
事故処理プロセスにおける、事故がなかった場合の予想売上を測定するには多くの方法があります(予算、予測、生産割合、市場価格)。理論上、予想売上の計算が正確であれば、損失期間が終了したときに実際の売上は予想売上と等しくなるはずです。しかしながら、それを左右する様々な要因にかかっています。例えば、現在起こっている米国・中国間における経済的な影響下において、仮に保険事故が発生した場合、その後、チップ製造業者は生産能力まで生産するでしょう。米国/中国の問題から変わるのは、販売価格(市場での供給の増加)であり、予想生産量×実際の販売価格から実際の売上高を差し引いたものでの基本的に計算されます。
Gross Profit方式の下での損失は、「事業の結果が事故の影響を受けなくなる」まで続くべきです。つまり、実際の売上高が予想売上高と等しくなったときを意味します。すべて個々のケースにより異なりますが、保険事故が発生しなかったならば到達したであろう売上に結果として近い数値となります。
2014年2月、WTWシンガポールオフィスにてJGPGアジアを設立、APACにおけるリージョンリーダーとして同組織を運営。現在、約450社に上る日系ビジネスを統括。保険会社における引受部門、多国籍企業における保険マネージャー、国際保険ブローカーとして23年の経験、また14年に上る欧州・シンガポールでの勤務経験を持つ。