日本では、法令により企業が定年の定めを60歳未満とすることができず、加えて、再雇用を含め65歳までの雇用確保が義務化されており、人々もまた、可能な限り高年齢まで働く傾向にあります。一方、世界をみてみると、多くの国では定年制(労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度)を導入していません。それでは、世界の人々は、何歳頃まで働いているのでしょうか。本稿では、世界における高齢者雇用・退職年齢について触れていきたいと思います。
以下の表1のとおり、ほとんどの国では定年の定めがありません。多くの国では、1980年から90年代に定年制を廃止しています。現在、定年を定めている国の多くは、アジアの国々です。また、定年を定めている国のうち、シンガポール、スウェーデン、アルゼンチンでは、定年年齢の引き上げを行っていますが、世界的にみて、定年年齢に関する動きはあまり多く見受けられません。
多くの人にとって、公的年金は、仕事を引退した後の大切な収入源となります(国によって、所得代替率は様々です)。そのため、仕事の引退時期について考える際、公的年金の支給開始年齢は重要なポイントです。
日本の年金受給開始年齢は、段階的に現在の65歳に引き上げられてきました。他国をみても、年金支給開始年齢は引き上げる傾向にあります。以下の表2で赤字の国は、現在年金支給開始年齢の引き上げを行っている国です。興味深い例としては、フィンランド、ギリシャ、ポルトガル、デンマーク、イタリア、スロバキア等の国では、年金支給開始年齢を平均寿命と連動させる仕組みの導入を検討しています。
一方、公的年金の支給開始年齢は、社会や政治にとって、とてもセンシティブな問題となっています。例えば、フランスでは、新聞等で報じられていたように、政府が年金支給開始年齢の引き上げを提案した際、暴動が起きました。また、香港では、公的年金の早期受取の廃止を目指していましたが、多くの抵抗やメディアの注目もあり、この案は取り下げられました。
経済協力開発機構(OECD)加盟国における仕事を引退する年齢(引退年齢)の実態調査は、1970年まで遡ることが出来ます。表3が示すとおり、統計のある1970年以降20年~30年の間、平均引退年齢は一様に下がってきましたが、一転して、90年代中旬からアングロ・サクソン諸国で上昇し始め、西ヨーロッパでも近年上昇し始めました。しかし、若年世代にかかる経済的負担や、引退後の収入を考えると、人々は更に高年齢になるまで長く働き続ける必要があります。日本はOECD参加国の中で、高齢者の人口指数が一番高い国です;2017年には、65歳以上の50人強を、20歳から64歳までの100人が支えている状況です。この指数は、2050年には79%まで上昇すると予想されています。日本での急速な高齢化は、生活水準の向上や、社会保障の財政維持の、大きな障壁となっています。
今後、人々がより高年齢まで長く働き続ける事が求められますが、その為には、以下3点が重要であると考えます。
まず1点目については、過去10~20年で改善してきています。これは主に、年金制度の改定(早期退職を促すような給付設計の廃止、年金支給開始年齢の引き上げ)によるものです。しかし、より柔軟な定年退職に係る環境整備が必要とされています。例えば、働きながらの年金受給を可能にする制度や、高年齢者に優しい職場環境の整備などが考えられます。その為には、社会的な視点と、会社の財政的な視点の、両方のバランスを見つけることが必要です。
2点目については、まだあまり制度が整備されていません。定年、雇用、給与を含め、年齢差別を禁止する法律が必要です(年齢ではなく能力を反映)。
3点目も同様に、まだ制度が整っていません。求職者のトレーニングや転職支援のみならず、在職者に対してのキャリアコンサルテーションや自己啓発支援など多岐に亘るプログラムが必要とされています。
人口や政治的背景の影響により、国によって全く状況が異なります。以下の表4は、2017年におけるいくつかの国の定年、公的年金支給開始年齢、労働力率(生産年齢人口に対する労働力人口)の一覧です。
また、ここで挙げた国の背景および詳細は、表5のとおりです。
世界は急速に人口の高齢化が進んでおり、これに対処するために、人々はより高年齢まで長く働き続けることが求められています。法令が改定され、様々な制度が導入されていますが、経済や社会の仕組みを維持するために、この動きは更に加速する必要があります。そのためには、大胆な法令の制定や改定が求められます。企業もまた、長期的なビジネスの成功のためにも、この動きに対処することが避けられないでしょう。