―Willis Towers Watson COVID-19サーベイより―
緊急事態宣言解除から1か月以上が経過した。 依然、収束には程遠い状況の中で、私たちは、コロナウイルスと共存しながら、社員個々人の健康と安全、そして企業活動の両立を目指す、新しい持続可能性を模索するフェーズに突入した。ウイリス・タワーズワトソンでは、コロナ禍がパンデミックを迎えた3月中旬から継続的に、コロナ禍が人材と組織にもたらす影響について、各種のサーベイを実施してきた。
本稿では、コロナ禍によって余儀なくされたリモートワーク、在宅勤務という未知の状態の中で、グローバルで各企業はどのような対応をしているのか、そこにどのような違いが出始めているのか、サーベイデータをもとに概観してみたい。
コロナ禍の対応は3つのフェーズに分けて考えることができる。誰しもが初めて経験する危機へ対応し、初期動作を行い、状況へ対応し、従来通りのビジネスの継続を試みる「危機対応フェーズ」。そして、これまでとは違う、ということを前提に、ビジネスのみならず、人材・組織への在り方自体を設定しなおす「新しい持続性の模索」フェーズ。そして「ポストコロナの新たなスタンダードの確立と推進」フェーズだ。私たちは今、危機対応フェーズから新しい持続可能性の模索フェーズへ移ろうとしている。
危機対応フェーズに、グローバルで各企業がとった対応は、共通しており、また対照的でもある。この間、リモートワークの待ったなしの導入や、出社を前提としない業務推進の必要性から、新しいテクノロジー導入など、予定していた新たな試みやプログラムの導入を加速させた企業は全体の36%に上っている。同時に、先行きの不透明感からこうした新たなプログラムの導入の遅延を決定した企業もまた36%に上る。契約社員や非正規人材の採用数の削減、教育研修プログラムの実施延期や削減を実施した企業は30%近くに上る反面、マネージャーやリーダーへのサポートプログラムや教育機会を増大させた企業、従業員のスキル転換のプログラムや教育機会を増大させた企業も25%近く存在する。各企業のおかれた状況による、ということに尽きるのかもしれないが、コロナ禍の影響を受けていない企業は存在しないこと、同じ産業であってもそこに企業の対応の違いが存在すると想定されることは興味深い。
他方、人件費コントロールという観点で、最も影響を受けたのが採用であることは、共通しているようだ。採用時期の延長や採用人数の減少、あるいは採用の凍結、採用者の雇用開始時期の延期などは35%以上の企業で実施されている。
こうした、事業上・コストマネジメント上の取り組みに加え、企業は社員へのコミュニケーションという観点からは、どのような対応を取っているのだろうか。
91%の企業が、この機に、企業が持つ福利厚生プログラムに関するコミュニケーションを増大させている。平時には関心が寄せられることの少ない福利厚生、健康に関するプログラム、会社の対応をきっちりと伝えることが、社員の安心、会社の対応への信頼感を強めることは間違いない。同時に、こうした中で、会社の存在意義であるところの企業理念、使命、企業目的などについてのコミュニケーションを8割近い企業では増加させている。従業員が一堂に会したり、人と人との接点を持つことで共通認識を高めることができない環境下、日々の業務に加え、そもそも自社が何のために世の中に存在しているのか、を語り掛ける、という対応は、昨今、重要視されているEmployee Experience(企業における従業員の経験)の重要性を鑑みると、的を射たアクションと言えそうだ。
ここ数か月、多くの日本企業の皆様、そしてクライアント各位から、「このようなご時世、コスト削減が厳しく言われている中、各社は今年の従業員意識調査をどのようにされているのか」という問い合わせを頂戴する。弊社の回答の根拠がこのデータにある。従業員の声に耳を傾ける努力を6割の企業が行っており、(追加的な)意識調査の実施を3割がすでに実施済みであり、約3割が実施準備中もしくは検討中である。未曽有の状況の中で、従業員の心身の健康をとエンゲージメントを維持するために、従業員の声を聞く取り組み、Listening strategyはその重要性を増している、といえる。
ちなみに、コロナ禍の期間(4月―5月)に、弊社がグローバルで実施を支援させていただいた各社の意識調査の状況、結果から、以下の特徴が明らかとなった。
新しい働き方、新しいスタンダードを確立していく移行期にあっては、以下の4つの領域に視野を向ける必要がある。
Work(仕事)、Wellbeing(ウェルビーイング、心身の健康)、Rewards(報酬)、Employee Experience & Culture(従業員の経験と風土)の4つだ。その中でここでは、Employee Experience & Cultureについてみてみよう。
高業績企業とそうでない企業は、従業員の意識、見方を測定する意識調査において、どこに違いが出るのか。弊社の高業績企業基準値に含まれる企業と、弊社でグローバルに調査を実施させていただいている企業の平均とを比べると、10%pt.以上のスコア差が生じているのは、以下の点である。
リモートの環境の中で、自分が受け入れられていると感じられること、意味のある仕事ができていると認識できること、差別やバイアスのない環境であると認識できる環境の重要性は極めて高い。これらをどのように実現するのか、を考えたとき、マネージャーやリーダーには、目の前にいない部下とどのように接し、部下の思いをどのように引き出し、部下が自律的に意欲をもって業務に向き合えるよう支援するのか、という問いに向き合わざるを得ない。オフィスという環境の中でいつもそばにいた部下が目の前から消えたとき、マネージャーやリーダーは、自らのリーダーシップを振り返ること、チーム全体という漠然とした集合体ではなく部下一人一人と向き合うこと、そのためには、これまでとは違ったテクノロジーやツール、そしてスキルが必要となる、という事実に直面しているのではなかろうか。また、部下も、上司の状況が見えない中で、自分のやりたいことを伝え、的確な指示を仰ぐためには、自分から発信をしなければ何も起きない、という現実の中で、待ちでは仕事がなくなる、という漠然とした不安感を持ち始めているのではないか。
新しい持続可能性の模索は、リーダーやマネージャー、そしてすべての社員のマインドセットや行動、それを成果や新しい可能性に結び付けるための環境整備、コミュニケーションやコラボレーションの新しいアプローチといった側面で、思い切って変える機会を私たちに提示している、ということができよう。
今後、継続して、新しい持続可能性の模索のアプローチについて、お伝えして参りたい。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのコミュニケーション・スペシャリストを経て、WTW入社。従業員エンゲージメント、コミュニケーション、チェンジマネジメントなどの領域に20年以上のコンサルティング経験を持ち、寄稿・インタビューなど多数。EX(Employee Experience)ビジネスのInternational Geography(アジア・豪州、中東、中欧・東欧、南米)のリーダー。