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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

コミュニケーションが方向付ける組織と従業員の関係性

執筆者 森畑 映美 | 2020年9月7日

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う在宅勤務の長期化により、社内コミュニケーションの機会は減少しています。本稿では、不確実な状況において、社員の帰属意識やモチベーションの低下を防ぐために必要なコミュニケーションとは何かを考えながら、企業が従業員の声に耳を傾けるアプローチのひとつとしてバーチャルフォーカスグループを紹介します。
Work Transformation|Employee Experience|Ukupne nagrade
Risque de pandémie

社内コミュニケーションは、組織のビジョンの浸透を通じた社員の活性化や、会社が社員の考えや意思を傾聴することによる心理的安全性の確保を実現する重要な役割を担うもので、不確実な状況において特にその役割を発揮します*1。当社が今年3月に、新型コロナウイルスによる働き方への影響を調査目的として実施したCOVID-19 パルスサーベイ*2でも、「従業員の仕事における課題に対処するため、企業はどのような支援を行うべきか?」という問いに対する回答で最も多く挙げられたのは「会社からのコミュニケーションによるサポート」でした。社内コミュニケーションを通して 組織と従業員の間に共通する意識やマインドセットを確立することは、よりよい組織と従業員の関係をもたらし、高い従業員エンゲージメントにもつながります*3

しかし、多くの企業では、従業員エンゲージメントの向上や従業員と組織の関係強化の部分において、コミュニケーションが担う役割を軽視してきた傾向にあります。さらに、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う在宅勤務の導入によって、コミュニケーションの機会はさらに減少しています。日本最大級の総合転職支援サービス『エン転職』が実施したアンケートでも、今回の感染拡大によって、テレワークに移行した人のうち、66%がコミュニケーションの変化を感じており、その中でも60%もの人がテレワークになってから、コミュニケーションの総量が減ったと回答、また16%もの人がコミュニケーションはほぼなくなったと回答しています。*4 このような状況の背景には、コミュニケーションは業績に直接影響しないという認識が根深いことや、効果測定の方法が曖昧であること、またそもそもの社員の関心が低かったりすることなどがあると考えられます。*5

オフィスという人々が共に働く物理的環境や、毎日オフィスに出勤して顔を合わせて話すという行為など、今までの当たり前が少しずつなくなる中、従業員は、心理的安全性や帰属意識を高めることが難しい環境下での就労を強いられています。そんなときに組織は、今一度「従業員とのコミュニケーション」を見直すことで、従業員に寄り添いながら、自社で働くことの意義を改めて認識してもらう機会を持つことができます。

本稿では、「従業員体験(Employee Experience - EX)」というコンセプトを基軸に、従業員と組織のつながりを深めるために必要なコミュニケーションとは何かを考えながら、企業がコロナ禍に従業員の声に耳を傾けるアプローチとしてバーチャルフォーカスグループというソリューションをご紹介します。

効果的なコミュニケーションの指標となる従業員体験(Employee Experience - EX)

従業員に向けた効果的なコミュニケーションを考えるうえで、まず基盤となるのが従業員体験(EX)です。EXとは、従業員と雇用者との間にあるすべてのタッチポイントと出来事を示します。社員が組織の中で経験するあらゆる要素(戦略、方針、施策、業務、検討プロセス、労働環境、人間関係など)に意味を持たせることで、会社に対するポジティブなマインドを社員に醸成できます。*6 当社では、40年にわたる知見に基づいて、従業員が会社で働く中で経験する4つの範囲として、

  • Purpose(会社・事業の存在意義)
  • Work(仕事のやりがい)
  • Reward(トータルリワード〈金銭/非金銭、有形/無形の処遇を包括する総報酬〉)
  • People(リーダーのあり方や企業風土、社員のあるべき姿)

を定義しました。これらは従業員が会社に対して求めている要素であり、それを会社が満たすことで、従業員の会社への貢献意識を高めることができます。

さらに当社は500社から収集した約1,000万人のサーベイデータをもとに、この従業員体験の4つの経験範囲において、高業績企業とその他の企業を差別化する要素を特定し、High-Performance Employee Experience (HPEX)モデルを策定しました。このHPEXモデルは3つのレイヤーで構成されています:

  • Essential(仕事をサポートするための基盤となる要素、これらを満たしていないということは従業員体験においてはリスクとなる)
  • Emphasis(個人の主体性を強め、高いEXを提供する企業を他からやや差別化する要素)
  • Excellence(高業績企業がEXにおいて真に優れ、差別化を図る要素)

HPEXモデルを使って自社の従業員体験を分析・評価する際に雇用者が特に持つべき視点は、このフレームワークの中で何を達成できていないか、ではなく、従業員は今何を最も必要としているかということです。やみくもにすべての要素を満たそうとするのではなく、自社の従業員によりよい経験をしてもらうために、今取り組むべき領域は何かという角度から考えることで、より効果的な戦略の構築や施策の導入につながります。

そして、それを特定する際に有効なのが、従業員の声を収集するヒアリングツールです。従業員の体験を改善するためには、その体験を日々過ごしている本人たちに話を聞くことが一番の得策です。また、組織側から従業員に対して対話を図るというアクションは、従業員のエンゲージメントを高めていくために会社が真剣に動いているという意思表示にもなります。なお、HPEXモデルの真ん中にある「Emphasis」のレイヤーでは、以下の実現が質の高い従業員体験につながると考えられています:

  • 組織としての理念を達成するために自身が参画できていること(Inclusion)
  • 率直に従業員が自身の意見を発言ができる環境があること(Voice)
  • 従業員同士が共有する思いや体験による一体感をつくること(Collaboration)

つまり、従業員の声に耳を傾け、組織と従業員の間で双方向のコミュニケーションをとるという行為自体が、すでに良い従業員体験を提供するうえでの重要なアクションなのです。特に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う新しい働き方への移行によって従業員の帰属意識や組織とのつながりが薄れていく中で、双方向のコミュニケーションの機会を組織側から創出しなければ、その溝は埋まりません。

コミュニケーションとヒアリングのツールとしてのバーチャルフォーカスグループ(VFG)

しかし、対面での話し合いや、大人数で集まることが制限されている状況の中でコミュニケーションを取ることも、大多数の従業員の声を収集することも容易ではありません。また、職場での意思疎通が、Eメールやチャットツールなど、オンラインの活字ベースでのコミュニケーションとなってしまったことで、管理監督者や人事担当者は、従業員の本当の考えや感情が見えにくい状況にあります。これらの課題を解決するうえで、バーチャルフォーカスグループ(VFG)は非常に効果的なプラットフォームです。

そもそもフォーカスグループ(インタビュー)とは、定性的なデータの収集方法のひとつで、コミュニケーションの分野での研究や、マーケティングリサーチにて活用されています。ターゲットとするステークホルダーの生の声の収集やより深堀した意見を収集するうえで効果的なツールです。

当社のVFGプラットフォームは、このフォーカスグループインタビューを制御された環境下でリアルタイムにオンラインで行うことができるツールです。モデレーターと呼ばれるユーザーは、参加者に質問をしながら、その場で出力される回答の傾向などをベースにインタビューを進行していきます。さらに、人工知能(AI)を活用することで、数百人規模の回答をセッション後わずか数分で、綿密なインサイトや分析をまとめたレポートという形で取得できます。また、参加者を属性ごとに切り分けて結果を分析することも可能なため、よりターゲットを絞ったインサイトを収集することもできます。

VFGは、回答の匿名性を保つことで、参加者自身の率直な意見の共有を促し、組織と従業員の間で正直かつオープンな対話を可能とします。従業員の考えや気持ち、意見を収集して、会社の施策や組織の方向性に活用することは、真のボトムアップな意思決定につながります。また、AIのデータ分析により抽出されるインサイトは、より客観的に組織の状況を映し出す有用な情報となります。

よりよい従業員体験を提供するために、オープンな対話を促進する

従業員が率直に意見を述べることができる機会を組織自らが作ることは、従業員へのコミットメントを示し、信頼ある関係性の構築につながります。リアルタイムでの情報の交換と分析を行うVFGは、従業員と組織の間で対話を行う上で有効なツールのひとつといえます。

さらに、従業員の声に耳を傾けることで、より良い従業員体験を提供するうえで行っているさまざまな取り組みの効果を計測することもできます。確かな情報をもとに施策を実施して、その効果を測定し、次に向けた改善を行うというPDCAサイクルを継続的に回すことにより、会社はより効果的なアプローチで従業員に寄り添い、組織としてのパフォーマンスを伸ばしていくことが可能となります。新しい就労環境の中で、会社と従業員の双方が手探りで「新しい会社の在り方」を模索する中、会社から積極的に継続したコミュニケーションをとることによって、従業員は働く意義を見出し、組織というコミュニティの一員であることを改めて実感することができると考えます。


出典

1 Mazzei, A. and Ravazzani, S., 2011. Manager‐employee communication during a crisis: the missing link. Corporate Communications: An International Journal, [online] 16(3), pp.243-254. https://www.researchgate.net/publication/235314705_Manager-employee_communication_during_a_crisis_The_missing_link

2 Kulesa, P. (2020, May 22). The impact of the coronavirus crisis on employee experience. https://www.willistowerswatson.com/en-us/Insights/2020/05/the-impact-of-the-coronavirus-crisis-on-employee-experience

3 Kang, M. and Sung, M., 2017. How symmetrical employee communication leads to employee engagement and positive employee communication behaviors. Journal of Communication Management, [online] 21(1), pp.82-102. http://researchgate.net/publication/313361891_How_symmetrical_employee_communication
_leads_to_employee_engagement_and_positive_employee_communication_behaviors
_The_mediation_of_employee-organization_relationship

4 エン転職 (2020年6月25日) 「『テレワークにおける社員コミュニケーション』実態調査」,https://corp.en-japan.com/newsrelease/2020/23400.html

5 「組織活性化施策のトレンドと成功に導く運営ノウハウ」,『労政時報』 2019年6月14日 第3973号, p.61, 株式会社労務行政.

6 松尾梓司 (2020年7月14日) 「在宅勤務時代に向け企業が取り組むべき3つのポイント」 ,https://www.willistowerswatson.com/ja-JP/Insights/2020/07/hcb-nl-july-matsuo

執筆者プロフィール


リードアソシエイト
Employee Experience(EX)

南洋理工大学 (NTU) 卒業後、外資系PR会社を経て2019年入社。戦略的PRのバックグラウンドを強みとし、M&Aにおける企業の文化統合や、人事制度改定、組織変革などチェンジ・マネジメントおよびコミュニケーションに関する戦略計画や実行支援を行う他、従業員エンゲージメント向上や組織開発に関連するプロジェクトにも参画。


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