GLTDとは、Group Long Term Disabilityの略称で、正式名称は、団体長期障害所得補償保険という保険商品のことです。
GLTDは、従業員が病気やケガにより長期間に渡って就業が不能になったときの所得を補償し、企業や共済会などの福利厚生制度を充実させる手段の1つに用いられます。
この場合の就業不能という状態は、病気やケガが原因で、全く働けなくなった場合のみを指すのではなく、例えば、病気やケガが原因で、健康時の収入から20%を超えて収入が減少した状態も含ます。
日本人の平均寿命は年々延びており、また今後の定年年齢の延びを見据えて、働けなくなった場合の経済的リスクを補償する保険として、昨今注目を浴びています。
以前より多くの企業がGLTDを導入しており、注目を浴びている背景には様々な要因が考えられます。
それは、1999年には204.1万人であったメンタルヘルス不調者が、2017年には、419.3万人と20年足らずで倍増している社会的な課題、がんと就業を両立していく働き方の実現、そして2017年の6,530万人から、2025年で6,082万人となり、さらに減り続けるであろうという日本の生産年齢人口減少の問題が挙げられます。これらの要因は全て、今まで以上に、企業が従業員に対して、より安心して働ける環境の提供(経済的ウェルビーイングの構築)が必要な時代になってきたことを示していると考えます。
これらの社会変化から生じる課題について、多くの企業では、既にメンタルヘルスや体調不調者を出さないようにする「未然に防ぐ対策やケア」をしています。しかし、不調者が発生してしまった場合の「事後の対策やケア」が未だできていないこともあり、GLTDは事後の対策として有効な手段の1つとなりえます。
コロナ禍で多くの企業が在宅勤務を実施している中、「同僚と気軽に雑談ができないことがストレスとなっている」「上司と密に相談ができなくなり、一人で問題を抱えやすくなった」「一人暮らしの従業員は外出の頻度が減りストレスがたまっている」など、今後多くのメンタル不調者が出てしまうのではないかと危惧をする声が多くのクライアントから聞こえてきます。
GLTDを企業が用意をするのはもちろん、従業員自ら、同様の所得を補償する個人保険を購入することもできますが、GLTDは、個人保険の所得補償保険と比較して、給与をベースに補償金額が決定できたり、精神疾患を起因とする就業障害にも対応できたりするなど、補償が手厚いというメリットがあり、また、団体規模を活かした団体割引が適用されるなど、保険料が割安なため従業員にも非常に喜ばれている制度です。
これらのメリットは、企業がGLTDを福利厚生として提供しない限り、従業員は享受することが出来ず、逆にGLTDを導入した企業内でのみメリットを享受できるので、社員の定着についても期待されます。
GLTDは、4つの要素(①補償(保険金)金額、②補償期間、③免責期間、④特約)を組み合わせることにより、企業や従業員のニーズや予算に合わせて、比較的自由に制度を設計できる保険です。
補償金額の設定方法には、定額型と定率型の2つがあります。定額型は毎月〇万円と定めるのに対し、定率型は、月額基本給の〇%とするなど、給与ベースで補償金額を設定します。
定率型の注意点として、就業障害による所得損失の割合に対して、設定した定率が適用されるため、通常、傷病手当金などの公的給付が提供されている期間は、健康な状態の月額基本給から公的給付金を差し引いた所得損失分に、設定をした定率から算出される保険金金額が支払われることになります。
補償期間は、就業不能状態が続く場合、いつまで保険金を受け取ることができるかという期間のことです。
こちらも、補償開始から〇年というような年数で定める方法と、60歳までというような年齢で定める方法があります。一般的には、定年年齢に合わせ60歳や65歳とするところが多くあります。
GLTDの主旨としては長期の就業障害に伴う所得補償である為、就業障害発生時から一定の期間は、免責期間として補償対象とならない期間があります。免責期間後の就業障害期間から補償対象となります。
通常、免責期間を90日~180日とするところが多くあります。
上記の主契約の他に以下の特約も付加することがきます。
うつ病など精神障害を起因とした就業障害を補償するための特約です。通常、この特約の補償期間は2年間となります。
地震・噴火・津波により被った身体の障害による就業障害について補償をする特約です。
通常分妊娠・出産・早産・流産により被った身体の障害による就業障害について補償をする特約です。
介護休業取得時の所得の損失を補償するための特約です。詳細については、後ほどご説明いたします。
GLTDの加入形態は、大きく分けて3つの契約形態があります。先に説明をした4つの要素と、加入形態を組み合わせることで、より企業と従業員のニーズにマッチした制度を設計することが可能になります。
対象の役員・従業員が全員加入し、保険料は会社が支払う加入形態です。
良い点としては、加入者数が多くなることにより、高い団体割引率が適用され、保険料が安くなる可能性があります。そして従業員にとっては、完全に無料の福利厚生制度となることです。
一方、注意点としては、従業員数や補償内容によっては、支払総保険料が高くなる可能性があることです。
加入を希望する役員・従業員のみが加入をし、保険料は加入者が支払う加入形態です。
通常2,3の補償プランを用意し、その中から従業員が自身に適した補償プランを選択します。
良い点としては、会社はコストをかけることなく、福利厚生制度を導入することができること。そして、従業員にとっても個人保険よりも安価に補償を購入することが出来ることです。
注意点ではないですが、全員加入よりも、加入者数が少なくなるため、団体割引率が低くなる可能性があります。
全員加入と任意加入を組み合わせた加入形態で、全員加入による高い団体割引率が、任意加入にも適用されるため、保険料メリットを活かしやすい加入形態です。また、仮に会社が十分な補償を全員加入で提供していなくても、従業員自らが全員加入で用意した補償の不足分を補うことが出来る為、会社と従業員が相互を補完する加入形態です。
企業や従業員のニーズや予算、そして加入形態の特徴に合わせて、加入形態も決定することをお勧めいたします。
介護休業取得時の従業員の所得の減少を補償する特約は、昨年から各保険会社で新設された特約です。
この特約は、介護や育児で離職を減らすことを目的として開発されました。
事実、平成28年度の介護離職者数は約4.7万人に対して、平成29年度は9.9万人と増えています。
そして、団塊ジュニア(1971~74年生まれ)と呼ばれる方々は、現在、就業者の最も多い構成層であり、中核業務を担っている40~50代です。彼らの親世代の約800万人と言われている団塊の世代(1947~49年生まれ)は、2025年には75歳以上(後期高齢者)に到達し、今後介護が必要になる可能性が非常に高い年齢になります。
これらの事実から、企業も今まで以上に、介護・育児離職への対策をすることが求められます。
補償内容についてですが、現行の介護休業制度では、最大93日分までは雇用保険から休業開始時賃金の67%相当の介護休業給付が支払われますが、介護休業補償特約は、介護休業給付金に補償を上乗せ(介護休業給付金と併せて最大80%)することが可能です。
また、例えば法定を超えて1年間の介護休業制度を設けている企業は、介護休業給付金が支払われなくなってから、1年間の介護休業が終わるまで月給の最大80%まで補償を受け取ることが出来ます。
保険会社によっては、親族の介護のために時短勤務をすることになった従業員の所得の減少を補うこともできます。
GLTDを導入すると、保険会社が提供している無料のEAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)サービスを使用することが出来る為、EAPサービスが十分でないと感じられる企業にとっては非常に有難いサービスです。
サービス内容は保険会社によって異なりますが、主に24時間の電話健康相談サービスや、メンタルヘルス電話・面談相談サービス等となっています。
コロナ禍をキッカケに、未来への不安が高まる中、労働人口の減少が問題となる日本において、従業員ロイヤリティや、従業員リテンション向上の重要性が増すことが予想されます。
また、介護離職問題も企業が抱える労働力一気に顕在化する可能性も今後出てくることが予想されます。
GLTDは、これらの経営課題を解決することの一助となり、経済的ウェルビーイングを構築することができる制度であり、従業員にとっても保険料コストのメリットを享受しながら、働けなくなった場合の経済的な不安を解消する助けにもなります。プランによってはコストをかけずに制度を導入することもできる為、GLTDは、これからの時代にますます求められる制度なのかもしれません。
平成 29 年就業構造基本調査-総務省統計局
平成29年患者調査-厚生労働省
Population Projections for Japan: 2016 to 2065-国立社会保障・人口問題研究所