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地震保険、テロ・治安リスク保険

執筆者 大谷 和久 | 2020年10月20日

日本の保険会社から入手が難しいリスクに対応する特殊な保険も、海外再保険マーケットを活用すれば入手可能です。主な例として以下の2つについて解説します。

1.地震保険

2.テロ・治安リスク保険

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皆さんは再保険という言葉をご存じでしょうか?

再保険とは読んで字のごとく、保険会社が再び保険をかけることです。保険会社は事故が発生した際に、契約者である企業に保険金を支払いますが、高額な保険金支払いが発生すると保険会社自身の財務状況が痛みます。そこで巨額損失に備えて、保険会社が別の保険会社に保険をかけるのです。保険会社からの保険を引き受ける会社を再保険会社といいます。

日本の保険会社は業務の一部として再保険の引受もしていますが、多くの保険会社では主たる業務は元受保険、すなわち企業などの契約者と直接保険契約を行っています。

一方、再保険会社は再保険専業が多く、裏方に徹しているため一般の方には知名度が低く、ほとんど知られていません。再保険会社は世界のいくつかのエリアに集中しており、いわゆる再保険マーケットを構成しています。ロンドン(ロイズマーケット)、バミューダ、シンガポールが再保険マーケットの3大拠点です。

日本資本ではトーア再保険株式会社が唯一の再保険専業の保険会社ですが、いくつもの外資系再保険会社が日本で営業しています。

再保険には大きく分けて、特約再保険(Treaty Reinsurance)と任意再保険(Facultative Reinsurance)の2種類があります。

特約再保険は保険会社が引き受ける一定以上のリスクは自動的に再保険会社が引き受ける契約を結んでいるもので、日本の保険会社は全て何らかの特約再保険を契約しています。特約再保険を契約することにより保険会社は自社の財務体力を超えるリスクの引き受けが可能になります。保険会社にとっては個別にいちいち再保険会社に問い合わせることなく、自動的に再保険手配がされているので、事務工数もかからず便利な仕組みです。

一方、任意再保険は個別の案件ごとに保険会社が再保険会社と交渉して再保険契約を締結するもので、特約再保険を超えるような巨大リスクや特殊リスクに対応します。保険会社によってはあまり積極的に任意再保険を活用していないところもあります。

今回は、企業にとって保険加入が困難な特殊なリスクでも、任意再保険を活用することによって保険によるリスクヘッジが可能であるということを説明していきましょう。

再保険を使った特殊なリスクへの対応

海外の再保険マーケットにはプレイヤーである再保険会社が数多くあり、キャパシティー(引き受け能力)も十分に確保できます。日本企業が直接海外の再保険マーケットにアクセスすることはできません。しかしウイリス・タワーズワトソンのようなグローバルでビジネスを展開している、海外の再保険ブローカーを活用すれば、海外の再保険マーケットの潤沢なキャパシティーを活用することができるのです。

  • 地震保険

    日本企業にとっての巨大リスクの筆頭は、地震リスクです。しかしながら、本連載の第6回「財物保険活用における日本企業の問題点」でも触れましたが、日本企業の地震保険加入率は財物リスクで30%、事業中断リスクでは3%とほとんど普及していません。住宅の地震保険付帯率は63%とかなり普及していますが、この違いは再保険制度も一つの理由と考えられます。

    住宅の地震保険は実質的には日本政府が再保険の引き受けをしていますが、企業保険にはそれがありません。保険会社は自社でリスクを抱える必要があるため地震保険の積極的な販売には及び腰になる傾向があると言えるでしょう。

    逆に言えば、任意再保険の手配ができれば、企業も地震保険加入への道が開けると言えます。

    どうして日本の保険会社は地震保険の引き受けに消極的なのでしょうか?

    日本の保険会社はそのビジネスのほとんどを日本国内で行っています。日本の保険会社が引き受けている地震リスクはほぼ100%日本国内のリスクであり、集中リスクなのです。もし日本国内の地震リスクを大量に抱えていたら、ひとたび日本国内で大地震が発生した時には保険会社は壊滅的な損失を被ってしまうでしょう。

    日本の保険会社も積極的に海外進出を試みていますが、まだ発展途上です。いまだ圧倒的に国内ビジネスが主流です。

    一方、海外の再保険マーケットには世界のあらゆるところからリスクが持ち込まれ、それらを数多くのプレイヤーが分散して引き受けています。日本の地震リスクも「One of them」なのです。だから日本の保険会社では引き受けられない日本の地震リスクでも、海外の再保険マーケットを活用すれば保険手当てが可能になるのです。

    具体的なフローの例としては、日本企業は、ウイリス・タワーズワトソンの海外の再保険ブローカーに海外の再保険マーケットのキャパシティー確保を依頼します。日本の保険会社は、ウイリス・タワーズワトソンの再保険ブローカーがその企業のために用意したキャパシティーを活用するため、再保険会社と再保険契約を締結します。日本企業が契約する地震保険は、あくまでも日本の保険会社との契約となります。

    海外の再保険マーケットを活用する手法で、新規に地震保険を契約した日本企業や既存の地震保険の増額を図った日本企業はいくつもありますので、ぜひ検討をしてください(図1参照)。

  • テロ・治安リスク保険

    テロ・治安リスク保険という言葉は聞き慣れないかもしれません。なぜなら、日本企業でこの保険を契約しているところはごくわずかでしかないからです。

    日本国内では巨大災害といえば地震リスクですが、世界レベルで見るとテロ・戦争・内乱・暴動などの治安リスクの方が巨大災害につながるリスクです。日本は極めて安全な国なのでピンとこないかもしれませんが、グローバルでビジネスを展開する日本企業にとってはしっかりと着目しなければなりません。地震と同様、めったに起きないけれど、起きたら大変なことになるタイプのリスクだからです。

    日本の地震リスクは一般的な財物保険では補償対象外となっていますが、同様にテロ・治安リスクもほとんどの国の一般の財物保険では補償対象外です。これらのリスクをヘッジするためには、別途テロ・治安リスク保険に加入する必要があります。グローバルな保険マーケットでは一般的な保険であり、多くのグローバル企業が加入している保険です。

    しかしながら、日本の保険会社が普通に販売している保険商品にテロ・治安リスク保険はラインアップされていません。日本は安全なので国内リスクとしてはニーズがないことも一因でしょうが、日本の保険会社が再保険の手当てをできていないことが最大の理由と考えられます。

    地震保険同様の手法で、海外の再保険マーケットを活用すれば日本企業もテロ・治安リスク保険に加入できます。

    東証一部上場企業の54%が地政学リスクすなわち治安リスクを有価証券報告書上で事業などのリスクとして開示しています。リスクとして認識し、開示までしているのに、何の手当てもしていないとなると、経営としては大きな問題です。しかも、保険会社が引き受けたがらないリスクは、企業にとっても抱えておくべきではないリスクと言えるでしょう。

    有価証券報告書でリスクとして開示している企業は、海外の再保険マーケットを活用したテロ・治安リスク保険も検討しておくべきです。

    ウイリス・タワーズワトソンはテロ・治安リスク保険分野のトップランナーです。


*本稿は『リスク対策.com』の連載・コラムへの寄稿2020/9/30 「グローバルスタンダードな企業保険活用入門-第9回 再保険の手配が必要な特殊な保険」からの抜粋です。

執筆者プロフィール

関西支店長 兼 グローバル プラクティス ディレクター 治安リスク保険ジャパンヘッド
Corporate Risk and Broking

Chubb損害保険株式会社 執行役員企業営業本部長、チューリッヒ保険会社 企業保険事業本部長を経て、2019年にWTWに入社し、現職を務める。
損害保険業界で40年の経験を持ち、著書に「国際企業保険入門(中央経済社)」がある。「2021年10月 東洋経済 生損保特集号」への寄稿など、各種メディアによる取材記事も多数。


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