企業がポストコロナ・ウィズコロナの環境に備える中で、在宅勤務や時差出勤をはじめとした“柔軟な働き方”は、従業員の安全を確保するための対応以上の意味を持ったものになりつつあります。多くの従業員にとって、働き方における柔軟性が、身体面をはじめ感情面や経済面など様々な形でのメリットを及ぼすことが、コロナ禍の働き方の中で明らかになってきました。
ただし、“柔軟な働き方”の提供が企業にとって必ずしもプラスに作用するとは限らず、また具体的な柔軟性のあるべき姿も企業により異なります。自社にとって最適な“柔軟な働き方”を検討する上で論理的な出発点となるのは、いつ、どこで、どのように仕事をするのか、またする必要があるのか、という業務推進に関する企業側のニーズであるべきです。そして、この検討の際には、エンプロイー・エクスペリエンス(EX:従業員体験)の視点を併せ持つことが重要です。これにより、企業と従業員双方のニーズを高い次元で満たす“柔軟な働き方”を構築するための貴重な洞察を得ることができます。
当社の調査の結果、パフォーマンスの高い企業では、働き方の柔軟性がEX/従業員体験としてしっかりと浸透していることが明らかになりました。これらの企業は、従業員の声に耳を傾けながら柔軟性を担保可能な仕事の在り方をデザインしたことで、顧客や市場に俊敏に対応しイノベーションを促進できる体制を構築し、ビジネス目標(生産性、効率性、革新性)の達成と、従業員の充実感(自立性とウェルビーイング)の双方を実現しています。
このような仕事のデザインを行う上で最初に取り組むべき重要なステップが、仕事・役割を分解してタスクレベルで見直し、現在どのように各タスクが行われているか、また将来的にどのように行われるかを明確化することです。タスクの見直しに取り組む際には、「いつ(時間的制約があるか、柔軟に対応できるか)」、「どこで(特定の場所で行うか、どこでもできるか)」、「どのように(共同で行うか、単独で行うか)」というタスクの特徴を整理することが重要です。
企業内の様々な役割一つずつについてこれらを丁寧に検討することで、「When いつ」であればフレックスタイムや時短勤務、「Whereどこで」では在宅勤務やシェアオフィスの活用、「How どのように」ではジョブシェアリングや社内コミュニケーションツールの導入、などの是非について判断し、EX/従業員体験に直結する全社施策の企画につなげることが可能となります。合わせて、タスクを見直す際には、下記のような観点から自社の状況を整理し、不足があれば必要に応じ整備を図ることが有効です:
“柔軟な働き方”が従業員に与える影響を理解するために利用できるアプローチの1つは、仕事のペルソナを作成することです。ワーク・ペルソナとは、仕事の性質(どのように)、ステークホルダーとの対話の度合い(いつ)、組織を超えたコラボレーションのための相互依存関係(どこで)によって特徴づけられる複数のジョブファミリーや役割をまとめたものです。例えば、ある組織のITサポートチームと製品製造チームは、時間的制約があり、通常はオンサイトの特定の場所で行われ、仕事の多くが共同作業であるという点で、仕事のペルソナを共有しています。ワーク・ペルソナを作成することで、近しい性質を持つジョブファミリーや役割が持つタスクについて、「When/Where/How」に関するどのような施策が、ビジネスのニーズとEX/従業員体験の観点から最適な結果をもたらすかを判断するのに役立ちます。
1日の中の時間の使い方に制約がなく、いつ何をやってもよい。オフィス外の様々な場所で実施可能な仕事である。業務の会社固有性は高くない。周囲とのコラボレーションは仕事の大きな部分を占めている。
時間に制約のある仕事もあれば、フレキシブルな時間にできる仕事もある。タスクの中には、職場で実施が必要なものと場所を選ばないものの両方がある。一定程度の会社固有性がある業務。一人でできる仕事もあれば、協力が必要な仕事もある。
時間的制約がある、あるいは指定された時間に作業を行う必要がある。仕事は職場で行われる必要がある。会社固有性が強い業務。コラボレーションは仕事の大きな部分を占めている。
最終的には、ビジネスと仕事の目的を踏まえ、またEX/従業員体験を考慮した上で、“柔軟な働き方”の内容を企画する必要があります。検討の進め方に万能のアプローチはありませんが、企業と従業員が一緒になって、どのようにすれば継続的に機敏で生産的かつ革新的になれるのかをともに描くことが重要です。
日系コンサルティングファーム・外資系PRエージェンシー等を経てWTW入社。従業員コミュニケーションやチェンジマネジメント、各種人事施策の企画に関するコンサルティングに従事。主な著書『M&Aシナジーを実現するPMI−事業統合を成功へ導く人材マネジメントの実践』(共著、東洋経済新報社)。京都大学法学部卒業。