「多様なアイデアと視点を積極的に受け入れる職場環境は、ウイリス・タワーズワトソンの従業員やお客様のみならず、地域社会にとっても極めて重要であり、有益な効果をもたらします。」とジョン・ヘイリー(ウイリス・タワーズワトソンCEO)も申しているが、組織における多様性は単なる努力目標には留まらない。複雑化し変化が激しいVUCAの時代に適切に対処する、先を見越す、イノベーションを生み出すための必要条件として人材の多様性が注目を浴び、その重要性に対する意識が極めて高まっていると感じる。そして、価値創造・イノベーションは、資質を有する個人を採用したり、個人のスキルを伸ばしたりするだけでは足りず、多様な人材による「チーム」で、お互いを認め合い、アイデアを出し合うことによって実現しうるものであると言えるだろう。
伝統的には、多様性と言えばジェンダー、国際性などの属性に焦点を当てた議論がされてきた。そして、企業における人材の多様性は、性別、人種、国籍、性的志向、信条などに関わらずに適切に人材を配置・登用していくことを意味するが、取締役会など高度な意思決定をする組織においては、スキルや経験の多様性も重要視されるようになってきた。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである」と規定され、特に、スキルについてはスキルマトリクスの開示を要請するに至っている。
以上のような多様性の観点に加え、様々な仕事に「チーム」として取り組むことが増えてきている状況下、チームの中での「ワークロール」の多様性を確保することも重要であると私は考えている。なぜなら、アイデアを出すこと、アイデアを精査し実際の戦略・計画に落とし込むこと、難易度の高い課題に対してなかなか成果が創出できない中チームを鼓舞すること、状況の変化に迅速かつ的確に対応すること、最後まで諦めずに取り組み続けてアウトプットまでこぎ着けることなど、仕事を進めるうえで必要な要素(ワークロール)はいくつもあるが、それらを全て兼ね備えた個人というのはなかなかいないと考えられるからである。
まずどのようなワークロールがあるのか、弊社のSaville Waveのモデルをご紹介しながら概観したい。Saville Waveは<図1>のようにワークロールを8つに分類している。これらの8つは、業務上で成功を収めるためのドライバーの中でキーとなる役割・態度を明らかにしたリサーチに基づいている。注意すべきは、これらのロールに優劣があるわけではなく、各メンバーが組織に対し価値をもたらすアプローチは人によって異なるということに分類の主眼があるということである。
<図1>をご覧いただくと8つのロールが4色に塗り分けられている。青は「思考面」、赤は「対人面」、黄は「適応面」、緑は「遂行面」でのワークロールであるが、基本的にはこれらすべてを兼ね備えたスーパーマンは極めて稀であることはご理解いただけるのではないだろうか。そのため、1人で全てのロールを担うのではなく、チームとしてバランスをとるという視点が重要になるわけである。
例を見てみよう。<図2>では、13人のチームメンバーのそれぞれの”Preferred Work Roles”と”Less Preferred Work Roles”が示されている。ここでは1人あたり2つの「好む」あるいは「好まない」ロールが判定されるため、”Innovator”と”Analyst”という思考系のロールは26ポイント中17ポイントと極めて高い割合になっている。他方、”Supporter”と”Relator”というロールを果たす人は少ない。
このような場合、どのようなチームになる可能性があるだろうか。物事を詳細に分析し、革新的なアプローチを取ろうとするが、他者を支援したり、対人関係を取り持ったりする人がいない…。革新的なアイデアによる戦略・計画の立案等が期待できる一方、戦略・計画の実現には幾多の困難にぶつかり、軌道修正し、乗り越えながら粘り強く対処することが求められるとすると、成果が出るまでチームが一体となって成果創出まで邁進できそうだろうか。
このように、メンバーの好む・好まないワークロールを確認することよって、チームのパフォーマンス予測に役立てることができるため、組織を組成する際に役立つ情報と言えるだろう。
上記では一例をお示ししたが、組織がパフォーマンスを発揮するには、その組織に期待された役割・成果に応じてどのような人材が必要かを確認し、その要件を備えた人材を集める必要がある。その際、専門性・スキルの観点から要件定義することに加え、チームに求められるワークロールの観点も加味することが有用である。なぜなら、例えば、やるべきことは決まっており着実に計画を実行するチームであれば、遂行面のワークロールを好むメンバーが中心で良いかもしれないからである。
スキルはチームに与えられた責務を果たすための専門性に関わる必要条件であるのに対し、ワークロールはチームとして機能し続けるための組織運営面での必要条件であるということができる。いくら知識・経験が豊富な人材がそろっていてもうまく機能しないチームになってしまうケースを見たことはないだろうか。そのような状態に陥る要因の1つとして、資質に関わるようなある種人間的な部分の客観的な評価が抜け落ちているからではないかと筆者は考えている。
ワークロールは心理検査を受検することによって確認できる。弊社でご提供しているSaville Waveでは受検者個人の結果と、グループの結果をご提供している。
個人別の結果は、<図3>のように、8つのロールがどの程度発揮される可能性があるかを10段階で示される。このサンプルでは、受検者が比較的多くのロールを担う可能性が高いが、好まないロールを補う人材と組ませると効果的であると考えられる。
グループの結果は、<図2>のように示される。活用方法は前述のとおりであるため、繰り返さないが、チーム内のワークロールのバランスを簡単に確認することができる。
昨今の「多様性」の議論は、様々な人が様々角度から「多様性」の意義を語っているが、ワークロールの視点で語られるものはあまり見られない。しかし、私自身が組織の中で他のメンバーと仕事をするうえで、各々発揮しやすいワークロールを持っていることを感じている。
漠然とあの人はこういう人だ、という議論はこれまでも行われており、それ自体当たらずとも遠からずの結論に落ち着くのかもしれない。しかし、このような議論は客観的データを持ったうえで行う方が、議論の軸もぶれにくく、建設的な議論がしやすくなる上、本人の納得感を得るという効果も期待できる。一般的な多様性の議論が、様々な視点、様々なスキルを活かす、というものであるのに対し、ワークロールはある種仕事の進め方のような性質を有するため、チーム組成の議論の1つの材料として利用することをご検討されてはいかがだろうか。