これまで多数の企業がグローバル賠償責任保険プログラムを構築されており、賠償責任保険の手配方法としては、すでに一般的なものとなりつつあります。プログラムの構築からすでに20年以上経過している企業もありますし、今後、プログラムの導入を計画している企業もあるかと思います。これらの企業において、グローバル賠償責任保険プログラムは、本来の保険としての機能に加えて、リスクマネジメントの観点からどの程度活用されている、あるは活用を想定しているでしょうか。グローバル賠償責任保険プログラムが一般的なものになっている今、その活用方法について、考えてみたいと思います。
グローバルプログラム構築の目的とは何でしょうか。企業ごとにその目的は異なるかと思いますが、一般的には以下のメリットを享受するためという企業が多いかと思います。
特にメーカーにおいては、開発・設計、製造、販売、メンテナンス等の業務が、グループ内で分業化され、これらの業務フローがグローバルに展開される中、個別の保険手配では効率が悪いという現実があり、賠償責任保険のグローバル化に積極的に取り組まれています。
これらのプログラム構築の目的は、グローバルリスクマネジメントにおいては非常に重要な課題であり、またプログラム構築の効果として、十分なメリットを企業にもたらしてくれます。特に補償条件については、保険発動の要件(Occurrence vs. Claims Made)や、懲罰的賠償責任(Punitive Damage)等、保険会社との交渉のテーブルに乗せ、議論をすることで、リスクに対する備えとすることができているのではないかと考えます。
一方で、これらの目的は、プログラムを構築し、社内での体制を整えることで、一定程度、達成が可能です。その為、構築したプログラムを積極的にリスクマネジメントに活用できている企業はそれほど多くないのではと思われます。
リスクマネジメントは、リスクコントロールとリスクファイナンシングで構成されますが、グローバル保険プログラムは、リスクファイナンシングにおける手法の一つであり、その構築は一定の費用対効果をもたらします。一方、賠償責任リスクにおけるリスクコントロールでは、生産物賠償責任に関する製品の品質管理等に目が行きがちですが、同様に重要となるのは契約管理になります。
一般的に、リスクマネジメント上、問題があるとされる事例としては、製造物責任について、契約によりサプライヤー等のパートナーのリスクを過度に負担しているものがあります。これらの多くは、第三者であるパートナーのリスクを負担したとしても、当該リスクについて保険の対象とすることができれば問題ないと判断されていることが多いのですが、実際には、想定以上の見えないリスクを負担している場合があります。当該第三者の過失等により、生産物賠償責任事故が発生し、損害額が保険のてん補限度額を超えてしまった、あるいは、想定を超える巨額な損害を保険で支払ったことにより将来の保険料コストが大幅に上昇してしまった等、の事態を想定していないケースです。もちろん、これらのリスク負担を以下の事由に基づき、その費用対効果を検討の上、許容しているケースもあるでしょう。
では、どこまでのリスク負担なら許容できるのか、リスク負担の可否についての判断の権限をどこまで持たせるのか、また、これらのいわゆる「契約により加重された責任」を保険の対象とすることができているのか等について、運営面においてしっかりと整備ができているでしょうか。実際、グローバルベースで考えた場合には、なかなか難しい課題なのではないかと思います。 これらの課題への取組みにおいて、グローバル賠償責任保険プログラムが活用できると考えます。
一般的な契約では、Indemnification Clause(補償条項)、Insurance Clause(保険条項)により契約当事者間のリスクを整理します。したがって、契約締結にあたっては、自社の保険契約の内容を一定程度、理解していなければなりません。この前提に立てば、グローバル賠償責任保険プログラムを通じて、保険に関する情報を管理することで、契約の締結にあたっては、法務部署に加え、リスクマネジメント・保険担当部署のスクリーニングを要件とし、通常以上にリスクを負担する契約を抽出、補償・保険条項を適正なものとするべく支援することが可能となります。また、リスク負担を許容しなければならないケースについても、ブローカーなどの活用により、そのリスクの度合いを検証、許容可能なリスクかどうかを判断し、保険で対応することを確認することが可能となります。
実際に、本社のリスクマネジメント担当部署で、グループ内のすべての契約をチェックすることは難しいかと思いますが、グローバル保険プログラム運営のための社内およびブローカーのネットワークを活用し、想定を超えるリスクを負担する契約の締結を回避する仕組みを作ることができます。
労力をかけて構築したグローバル保険プログラムであれば、なおのこと、本来の保険としての機能に制限することなく、リスクマネジメントに活用するべきです。上述の契約管理は一例であり、賠償責任保険に限らず、そのほかの保険種目においても、グローバル保険プログラムを上手に活用し、リスクマネジメントの向上に役立てていただきたいと考えます。
2016年、ウイリスジャパン入社、保険プログラムの設計、保険会社交渉を担当。保険ブローカーとしておよそ30年の経験を活かし、日系企業向けのグローバル保険プログラムの構築、リスクマネジメントコンサルティングサービスを提供。