昨今の不安定な金融市場を背景に、企業は投資戦略や年金財政戦略の再考を余儀なくされています。2019年から2021年までの株式市場の好調なパフォーマンスのもと、DB制度の積立状況は近年で最も良好な結果となっています。弊社(WTW)のWTW Pension Index for Japanは、退職給付債務(PBO)の積立状況がベンチマークとなる仮想的な制度においてどのように変動するかを評価する指標です。目下、当指標は2011以降の最高値を表しており、100%に迫る数値となっています。
現在のような不安定な状況下では、複雑に影響しあう年金リスクから生じ得る多様な結果を検証することが有益です。年金ALMは、年金制度に関するさまざまなリスクを資産と債務で整合性の取れた一貫した前提条件を使用してシミュレーションすることで、企業がこれらの不確実性に適切に対処するための有用な示唆を与えます。
では、現在の状況について、良い側面から見ていきましょう。2019年から2021年までの株式市場の好調なパフォーマンスと金利上昇を背景に、年金資産の積立状況は好調を維持しています。
出典: 6月30日付The WTW Pension Index for Japan / WTW Pension Index for Japanは、退職給付債務(PBO)の積立状況が仮定に基づいたベンチマークにおいてどのように変動するかを評価する指標。
出典: 3月31日時点の積立状況 - 2014年- 2021年:企業年金連合会 / 2022年:WTW予測
一方で、企業は様々な課題に直面しています。年金資産と年金債務の変動に影響を与える主要因である、経済成長、インフレ率、金利がこのところ非常に不安定です。
株式市場は引き続き変動が激しく、また金利も上昇傾向にあることから、企業は債券や株式といった伝統的資産クラスへのアロケーションを徐々に減らしつつあります。
オールタナティブ投資へのアロケーション | <3% | 3-5% | 5-10% | 10-15% | >15% |
---|---|---|---|---|---|
日本のDB制度での普及率plans | 8% | 7% | 19% | 18% | 49% |
投資について決定する際にESG投資を検討する企業が増加しています。WTWの調査では、62%の企業が、サステナブルな投資をすでに実施している、または検討していると回答しています。
出典: WTW 2021 DB Plan Governance Survey (Japan).
年金制度のガバナンスへの関心が高まる中、多くの企業がガバナンスの強化へ動き出しています。
出典: WTW 2021 DB Plan Governance Survey (Japan).
確定拠出年金制度(DC制度)の拠出限度額が変更になります。2024年12月1日以降、DB制度とDC制度を持つ企業のDC拠出限度額は、DB制度の掛金額(および他制度掛金相当額)を計算する際に用いた予定利率の影響を受けます。ハイリスク・ハイリターンの投資戦略を採用している場合は、DB制度の予定利率が高くなることによって、DC拠出限度額も高くなります。
市場の変化や経済動向、社会環境の変化などの数多くの要因により、企業は投資戦略や掛金拠出戦略の見直しを迫られています。
企業はALM分析の結果を活用して対応策を検討しています。WTWのALM分析では、多数の経済シナリオを用いて、年金資産と年金債務を整合的にシミュレーションするため、企業が年金制度の財務・ビジネス上の目標達成に向けて最適な戦略を決定する際に活用することができます。
ALM分析の結果を活用すれば次のような事柄を検討することができます。
年金業界で20年のコンサルティング経験を持ち、制度設計、de-risking、年金財政、投資、ガバナンス等に幅広く従事。東京オフィス勤務以前はパリとニューヨークにて、グローバルアクチュアリー、M&A、インターナショナル年金制度などの面で多国籍企業の年金や福利厚生プログラムをサポート。米国アクチュアリー会正会員、 CERA(Chartered Enterprise Risk Actuary)、CFA(CFA協会認定証券アナリスト)。
リタイアメント部門にて、退職給付制度の設計支援、退職給付会計、年金財政、年金ALMなど退職給付全般のコンサルティング業務に従事。M&A関連では、退職給付制度に関するデューデリジェンス、PMIにおける退職給付制度の再構築支援などを行う。年金数理人。日本アクチュアリー会正会員。国際アクチュアリー会年金会計委員会委員。国際アクチュアリー会年金・ベネフィット社会保障委員会委員。
企業年金のALMを中心に、制度設計、退職給付会計、M&Aに関わる退職給付制度のデューデリジェンス等に従事。2020年と2021年には、外資系企業として初めてのリスク分担型企業年金制度の導入コンサルティングを2件担当。年金数理人。日本アクチュアリー会正会員。日本証券アナリスト協会検定会員。
確定給付年金制度における政策アセット・アロケーションの立案、資産運用会社の調査・選定、パフォーマンスモニタリング、確定拠出年金制度における投資オプションや運営管理機関の選定、パフォーマンスモニタリングを担当。また、退職給付制度のガバナンス体制構築に関する数多くのプロジェクトにも携わっている。