EU環境責任指令とは2004年に導入され、現在はEU各国内で運用されている法律です。近年の環境保護の強化の中で、この法律が導入されたことによって、日系企業もこの新興リスクに対応する必要があります。
例えば英国では、この指令に基づく事業者の環境責任は、主に次の2つのスキームで構成されています。
1つめは指定されている環境に有害な活動に対する厳格責任、もう1つは他のすべての事業活動に対する障害に基づく責任です。通常、新しい法律が施行された直後の賠償リスクは一般的な賠償責任保険ではカバーされないため、環境賠償責任保険(EIL: Environmental impairment Liability Insurance)を新たに検討する必要が生じます。
EU環境責任指令の最大の特徴は、環境汚染を生じなくとも希少な動植物が生息する自然環境に悪影響を与えると判断された場合、その自然環境を維持・移転する責任まで問われるバイオダイバーシティ(生物多様性)保護要請にあります。
また同様に、汚染者のみならず所有者にも環境汚染の厳格責任を問うスーパーファンド法下の米国においては、たとえ浄化命令に至らなくとも、その調査に莫大な費用と長期間を要します。
従い、これら厳格責任を問われるEU圏や北米において環境負荷の高い事業のM&Aを検討の際には、以下の注意が必要です。
1) 環境デューデリジェンスのみならず、保険デューデリジェンスにより現行環境汚染賠償責任保険の有無と補償内容をその継承可否と共に事前検証
2) 上記1で環境賠償責任保険の付保実績ないか承継できない(例:カーブアウトの)際は、クロージングまでにフェーズ2調査を完了の上、想定保険料を含むリスクコストを売手と事前交渉
3) ERM/ESG視点のオプションとして、本社コスト負担のグローバルEIL/PLLを検討
その対象国を問わず環境負荷の高い⇒規制対象有害物質を取り扱う事業、或いは過去に汚染履歴のある地域での事業を対象にクロスボーダーM&Aを検討する際は通常、以下の様な項目に関し環境DDが少なくとも机上で実施(フェース1環境サーベイ)されます。
① 環境マネジメント体制とポリシー
② 環境規制関連の許認可状況
③ 施設内外廃棄物の種類とその処理方法
④ 大気放出の有無と放出物質
⑤ 用水と工程・生活・雨水等の各排水状況
⑥ 取り扱い有害化学物質や危険物
⑦ 地中アスベストとPCB使用・汚染状況
⑧ その他の土壌汚染や地下水汚染
上記はいずれも譲渡契約中への売手の表明保証が得にくく、また仮に得られても表明保証保険では免責となります。これらのうち④~⑧については、環境デューデリジェンスで指摘されても、環境汚染賠償責任保険で補償可能な場合があります。
また、そもそも環境負荷の高い既存事業であれば、既に環境汚染賠償責任保険を購入済みの可能性がある為、他の保険種目と共に現行保険内容をその承継可否と共に精査する【保険デューデリジェンス】の実施をお勧めします。
一般的な保険デューデリジェンスの対象項目は以下の通りです。
環境賠償責任保険(Environmental Impairment Liability Insurance or Pollution Legal Liability Insurance)は、一般の賠償責任保険や表明保証保険では補償対象外の環境汚染に起因する規制当局から課せられた汚染除去費用や第三者への賠償責任(身体障害・財物損壊・使用不能損失)を3~5年の長期にわたり補償可能な賠償責任保険の一種です。
ただし、EIL/PLL保険の対象は原則、保険購入後新たに発生した汚染のみの為、クロスボーダーM&A買手視点から売手や過去の汚染者による環境債務レガシーリスク(※北米では付保困難な場合あり)を回避する上では、未だ顕在化していない既存の蓄積性汚染が発覚した際の争訟費用を含む第三者賠償コストや調査・除去費用を含む軽減費用発生によるインパクトを企業価値評価に反映する事が重要です。
前述の如くEIL/PLL保険は環境負荷の高い事業をM&Aの際に有効な保険ソリューションですが、M&Aを機にグローバル保険プログラム化することによりグループ全体の統合リスクマネジメントERMの一環として、昨今投資家や融資機関も注目する貴社ESGに寄与することも可能です。
当社WTWグループは、環境リスクに関する専門チームを欧州・米州・アジア・オセアニア各地域に配し、特に買手に対しクロスボーダーM&Aの際の保険デューデリジェンスを含むEIL/PLLアドバイザリーからその組成、保険金請求支援まで一貫して貴社の環境汚染リスク対策を支援致します。環境債務が懸念されるM&Aをご検討の際は、どうぞお気軽に下記までお問い合わせください。