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特集、論稿、出版物 | 企業リスク&リスクマネジメント ニュースレター

Battery Energy Storage System(BESS:蓄電池システム)に内在するリスクと効果的なリスクマネジメント

執筆者 関口 大樹 | 2024年3月19日

人口増加、反原発の流れを背景とした代替電力需要増加を受け、再生可能エネルギーの拡大が進んでいますが、近年では再生可能エネルギーの効率化を支えるBESS(蓄電池システム)の活用も進んでいます。本稿ではBESSの効果的な運用の観点から、BESSのリスクの効果的な対策について概説します。
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エネルギー危機が続く中、カーボンニュートラル社会の実現に向けた世界の動きは加速の一途を辿っており、この世界の潮流の中でBattery Energy Storage System (BESS:蓄電池システム)が担うべき役割は今後益々重要になってきています。BESSは、増加するエネルギー需要に対応すべく電力供給システムを強化する中で、風力発電や太陽光発電による発電能力の効率化に大きく寄与することができます。BESSはエネルギー需要が低い時間帯で発電した余剰電力を蓄積し、電力需要が高い時間帯に蓄えた電力を供給することが可能であり、BESSオペレーターにとっては蓄電した電力を単価の高い時間帯を選んで売却することができる事業メリットがあります。電力需要の増加への対応は、事業者に対してこれらの事業メリットをもたらすことに加え、直近の10年間でリチウムイオン電池の価格の下落が続いた背景を考えると、BESSはますます魅力的な事業セクターとなってきていると言えるでしょう。

ここで、拡大するBESSセクターにおけるリスクマネジメントで注意すべきことは何かについてその概略を解説したいと思います。 まず、リチウムイオン電池は可燃性があり危険であることが挙げられ、ここ数年での数々の事故により、近年、BESSに保険を付保しようとする際、保険会社は保険の引受けに当たり高度なリスク防止対策プランの提示を求めてきています。本稿においては、保険会社がBESS事業者に要求するリスク対策について、その概略を説明します。

熱暴走とサイトレイアウト

保険会社がBESSプロジェクトをレビューする際、最大の懸念事項は熱暴走になります。熱暴走とは蓄電ユニットの発熱反応が制御できなくなる状況であり、電気的又は機械的な故障、温度管理ミス、電気のショート、過電流により発生し、結果として火災を引き起こすことがあります。

従って、熱暴走に起因する損害を最小限にする観点において、設計および計画段階におけるプロジェクトの蓄電コンテナの設置間隔のレイアウトが非常に重要になります。保険会社は、これまでに発生した事故による保険金支払いの経験から、蓄電コンテナは最低4.5メートルの間隔で設置する事を推奨しています。また、プロジェクトサイトの面積が狭く蓄電池ユニット間のスペースを取ることが難しい場合、蓄電コンテナ間に防火壁を設置することを重要視しています。

仮にプロジェクトの熱暴走対策が不足しているとみなされる場合、保険会社は熱暴走又は火災リスクに対して低い支払限度額の設定や、保険料の増加・免責金額の設定をする等、補償内容を制限する可能性があります。

予想最大損害額

保険会社がプロジェクトのリスクを考える際、「最悪の」リスクシナリオである予想最大損害額(PML)を算定し、保険料算出及び保険条件設定に向けた一つの判断指標とします。BESSプロジェクトにおいては、熱暴走による蓄電コンテナの1つ又は複数のコンテナの焼失による全損であり、以下のシナリオで計算されます。

  • 損失シナリオ1
    シナリオ1の対象となるプロジェクトは約2億円の蓄電コンテナ4基を保有しており、蓄電コンテナ4基の設置間隔は1.5m未満かつ防火壁も設置していない場合、保険会社が当該プロジェクトは適切な防火対策を構築していないとみなし、火災により蓄電コンテナ4基が全焼するシナリオである約8億円をPMLと算定します。
  • 損失シナリオ2
    シナリオ2の対象となるプロジェクトは上記と同様約2億円の蓄電コンテナ4基を有しますが、蓄電コンテナ4基は4.5mの間隔で設置していることから、保険会社は熱暴走が発生しても延焼する危険は少ないと考え、PMLを蓄電コンテナ1基の全焼のみの約2億円と算定します。

保険会社が算定するPMLが低い程、保険を付保する際の保険料が低廉になると共に補償範囲も広くなりますので、PMLを低く抑えることはBESSプロジェクトのリスクマネジメントコストの低減に有利になります。このためにも、BESSプロジェクト開発に向けては、レイアウト検討において早い段階でのリスクマネジメントの取組みが重要になります。

蓄電池の業界標準:UL9540a

保険会社がプロジェクトのリスクを算定する際、蓄電コンテナメーカーがUL9540a試験の結果をリスクの大小の判断材料にしています。このUL9540aは、BESSにおける熱暴走発生の際の、熱や火災の伝播、その拡大を抑制するための技術がどの程度有効であるのかを評価するものになります。

バッテリー管理システム(BMS)

保険会社は、BESSプロジェクト内のバッテリー管理システムが潜在的なリスクの特定、リスクコントロール、リスクの削減においてどの程度の機能を持っているかを検証しており、保険会社が求めるバッテリー管理システムの機能は以下の通りになります。

  • バッテリーの異常な状態を検知し、バッテリーが最適な状態を保つために必要な記録、監視、分析(充電/放電速度、過充電/過放電の防止)機能
  • NFPA855又はこれと同等の業界標準の火災検知機能
  • 重大なインバランスの発生を検知し、蓄電池への電流を抑制するための隔離機能
  • 24時間365日体制のリモート監視機能
  • サイバーセキュリティ

コンテナ設計

電池セルからのガスの排出は熱暴走の発生を早期に示唆するものであることから、蓄電コンテナの不安定稼働発生前にガス発生を検知することは非常に重要になります。したがって、バッテリー管理システムの設置と併せて、蓄電コンテナには以下の機能が備わっていることが必要になります。

  • メタンや水素ガスを検知するための高感度モニタリング及びセンサーシステム
  • 爆発の原因となる可燃性ガスの蓄積を防ぐための換気システム
  • バッテリーの最適効率を維持するための温度及び湿度管理システム

防火対策

火災発生の防止のみならず、火災が発生した際の消火対策も重要になります。消火対策は、近隣の消防署と連携した防災体制の整備及び訓練の実施が重要になります。保険会社は詳細な防災計画及び地元の消防署が化学火災への対応体制及び訓練の実施結果まで確認しているのが現状です。

熱暴走による火災が発生した際の消火対策の方法論として、火災そのものを消すのではなく、火災による損害拡大を防ぎ、損害の範囲を一部に留める考え方も重要になります。熱暴走が発生すると、蓄電コンテナは数分で数百度も上昇することから、蓄電コンテナの温度上昇による周囲への輻射熱を減らすことを目指した延焼対策が効果を発揮することがあります。熱暴走が発生した蓄電コンテナ自体は全焼してしまいますが、隣接コンテナへの延焼を防ぐことが効果的な損害軽減対策になります。蓄電コンテナの鎮火には数日かかることがあることから、プロジェクトサイトは十分な水量を持つ水源に容易にアクセス可能であることが重要になります。

結論

BESSプロジェクトの開発及び運用はクリーンで安全なエネルギー社会実現に向けた中心的なテーマになると考えられ、これを支える、効果的なリスクマネジメントはBESS分野の発展に大きく貢献することになるでしょう。本稿で説明した通り、BESSには様々なリスクが内包されていますが、早期かつ効果的なリスク対策によりBESSのポテンシャルを最大限に発揮することができると考えます。

執筆者


ゼネラルマネジャー
ジャパンビジネスディビジョン

2002年国内損害保険会社入社。物流、重電、石油元売、建設業等の大企業に対する営業に従事すると共に3年間国際ブローカーへの出向経験を持つ。2023年9月当社入社。大企業への営業に従事する傍らで、M&A、信用保険等の専門性の高い分野のサービス提供にも従事。日本証券アナリスト協会認定アナリスト


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