メインコンテンツへスキップ
main content, press tab to continue
特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

オーストラリアの年金制度と開示について

執筆者 ダン マシュー | 2024年5月14日

政府は、日本の資産運用業の改革を後押しすることを期待して、企業年金制度の報告と開示の強化を検討しています。オーストラリアは人口が比較的少ないにも関わらず、年金市場は3兆5,000億豪ドルと世界最大級の資産規模を誇り、その大部分は確定拠出(DC) 年金です。オーストラリアにおける年金に関する規制と開示要件は、DC加入者のより良い投資成果の達成にどのように寄与しているのでしょうか?
Retirement
N/A

オーストラリアのDCシステム:スーパーアニュエーション

国の年金制度は、退職後の収入を提供するための3つの柱で構成されているとよく言われます。第1の柱は公的年金制度、第2の柱は雇用主負担の年金制度、第3の柱はその他すべての私的な貯蓄制度や資産です。

オーストラリアでは、スーパーアニュエーション(第2の柱)への雇用主の拠出が義務付けられています。この拠出義務は、高齢化がオーストラリアの社会保障制度である老齢年金(第1の柱)に及ぼすであろう影響を軽減するために、1992年に初めて導入されました。

それ以来、従来の雇用主負担の確定給付(DB)型プランを採用していた多くの企業が、DBへの拠出を減らし、スーパーアニュエーションの最低要件をより簡単に満たすことを目的に、スーパーアニュエーションに移行しました。

その後、改革を経ながら退職年金の最低拠出要件は引き上げられ、2024年現在、雇用主は従業員の給与の最低11.5%をスーパーアニュエーションに拠出することが義務付けられています。そしてこの拠出率は2025年からさらに12%に引き上げられます。

日本では、DCへの拠出金は非課税で、拠出限度額は年間66万円(制度設計によってはそれ以下)となっています。オーストラリアでは、スーパーアニュエーションへの拠出金は(ほとんどの場合)15%で課税されまずが、現在、拠出限度額は年間27,500豪ドルとなっています。これは日本のDC限度額の約4倍です。また、オーストラリアでは、27,500豪ドルの限度額までは税制上の優遇措置のある拠出が可能ですが、限度額を超える部分については、110,000豪ドルの上限まで、税制上の優遇措置のない拠出を行うことができます(2024年7月1日より、これらの上限額はそれぞれ年間30,000豪ドルおよび年間120,000豪ドルに引き上げられる予定)。

このような状況を反映して、スーパーアニュエーションへの拠出額は徐々に高くなってきています。例えば、2023年6月30日までの12か月間で、雇用主の拠出金は1,225億豪ドル、従業員の拠出金は427億豪ドルに及びます。

結果として、第2の柱としてのスーパーアニュエーションは退職所得の主要な源泉として重要度が増してきており、長期的には公的年金(第1の柱)への依存度が低下していくと見込まれています。つまり、自宅の購入の除くと、ほとんどの個人にとってスーパーアニュエーションが最大の投資となるのです。

日本では2001年にDC制度がスタートしましたが、日本の年金制度の成り立ちや背景もあり、DCの加入者数や運用資産の増加のペースはそれほど速くありません。例えば、以下の理由が挙げられます。

  • オーストラリアとは異なり、すべての雇用主は、従業員に基本となる退職所得を提供する公的年金制度(第1の柱)に拠出する必要がある。そのため、補足的な会社負担の年金制度の提供は任意となっている (ただし、多くの雇用主は提供)。
  • 従来型のDBプランからDCプランへの移行に対する従業員の抵抗感(DCで自ら投資判断を下すことに抵抗を感じる場合がある)や、日本のDCの低い拠出限度額が足かせになっている。

スーパーアニュエーションの投資成果の状況

DCでは、従業員が投資の責任を負います。 ASFA(the Association of Superannuation Funds of Australia)によると、スーパーアニュエーションが導入されてから30年間の投資収益率は平均で年率7%を超えています[1][2][3]。一方、企業年金連合会によると、日本におけるDC制度発足以来の運用リターンは平均で年率約3.8%となっています[4]

これは、スーパーアニュエーション加入者が、成長が見込まれるリスク資産により多くの資産を配分し、リスクフリー資産(例:現金)への配分が平均的に非常に低いことに起因していると考えられます。一方、日本ではDC資産の約45%が元本保証商品(リターンはほぼ0%)に配分されています。

スーパーアニュエーション・ファンドおよび運用商品の選択

オーストラリアのスーパーアニュエーションの特徴として、2005年7月より、従業員がDCプロバイダー(スーパーアニュエーション・ファンドとも呼ばれる、日本における運営管理機関)を選択できるようになったことが挙げられます。つまり、従業員は雇用主が事前に選択したDCプロバイダーに参加する必要はありません。

このような特徴もあって、スーパーアニュエーション・ファンドは加入者を惹きつけ、維持する必要性から、激しい競争関係が生じます。スーパーアニュエーション・ファンドは、投資実績、サービス、または手数料の低さに基づいて、競合他社との差別化を図ろうとします。規制当局は、スーパーアニュエーション・ファンドに対し[5]、既存および潜在的な加入者に対して、通常、ファンドのウェブサイトを通じて、以下のような情報を開示することを義務付けています。

  • スーパーアニュエーション・ファンドの運営、財務状況、投資実績に関する情報を網羅した年次報告書
  • 目標リターン、過去リターンおよびリスク、手数料等、スーパーアニュエーション・ファンドが提供する運用商品の概要情報
  • 提供される各運用商品のポートフォリオに関する定期的な報告
  • スーパーアニュエーション・ファンドの主な特徴、手数料、福利厚生、リスク、苦情処理手順に関する情報を含む商品開示書
  • 加入者への年次ステートメント

そのため、従業員は、自分に最適なスーパーアニュエーション・ファンドを選択するために必要な情報にアクセスすることができます。ほとんどのスーパーアニュエーション・ファンドはアクティブ運用のバランスファンドを提供しているため、投資パフォーマンスの比較は特に重要です。

その他の様々な要因もあり、スーパーアニュエーション・ファンドの急速な統合が進み、従業員はより少ない選択肢の中から、規模が大きく特徴あるプロバイダーを選択できるようになりました。

スーパーアニュエーションにおけるデフォルト・ファンド

日本と同様に、スーパーアニュエーションの投資先を決めていない従業員の資産は、デフォルト・ファンド(日本における指定運用方法)に投資されることになります。

また、DC資産の急成長にも関わらず、従業員の資産の約75%がデフォルト・ファンドで運用されており、従業員の投資に対する関心を高めることは引き続き課題となっています。

このことを認識して、オーストラリア政府は、「MySuper」として知られるデフォルト・ファンドとして適格な基準を定義しました。MySuperは、分散された単一の戦略またはライフサイクル・ファンド(ターゲットデイト・ファンド)かつ、シンプルで低コストのファンドである必要があります。

要するに、オーストラリアのデフォルト・ファンドは、低金利/リスクのない投資戦略にはなり得ず、このことは比較的よい運用成果の主たる要因になっています。

さらに、規制当局は毎年、MySuperのパフォーマンステストを実施し、ファンドがベンチマークと比較してメンバーに良好な投資パフォーマンスを提供しているかどうかを判断します。あるファンドが8年間でベンチマークを年率0.5%以上下回った場合、そのファンドはテストに不合格となります。

ファンドがパフォーマンステストに一度失敗した場合は加入者に通知の上、ファンドを他の代替ファンドと比較するようアドバイスする必要があります(ただし、ファンドの切り替えは強制されない)。ファンドが2回連続で年次テストに失敗した場合、テストに合格するまで新しい加入者を受け入れることは禁止されています。

この措置の目的は、個人を悪い運用結果から保護し、ファンドがコストを削減し、パフォーマンスを向上させることを奨励することです。

日本のDCプランの中で、元本保証商品への配分が高い(リターンが0%に近い) 主な理由は、多くの事業主がそのようなファンドをデフォルト・ファンドとして選択してきたことが大きな要因の1つでしょう。歴史的に見ると、この決定は、投資成果がアンダーパフォームした場合の従業員からの反発を恐れて、事業主がマイナスのリターンの可能性のあるデフォルト・ファンドの選択に消極的だったことが一因でした。しかし、DCの投資期間は長期に及ぶものであり、短期的なボラティリティはある程度許容できるはずです。そうでなければ、従業員の運用成果は乏しいものとなるでしょう。そこで、2018年にDC法が改正され、適切なプラスのリターンを積み上げるために、長期的な視点でデフォルト・ファンドを設定することが明確化され、インフレを含む市場の変化による損失に備えることが明確になりました。それにもかかわらず、厳格な要件がない中で、多くの事業主はデフォルト・ファンドの評価と変更に多くの時間を要することになりました。

日本の年金開示と報告における潜在的な改善点

DC法では、DCプランを提供する事業主に次のことが義務付けられています。

  • DC運営管理機関を5年ごとに見直しする(努力義務)
  • 従業員の最善の利益のために運用商品のラインナップを選択する
  • 適切なプラスのリターンを達成するという長期的な視点で指定運用方法を設定する

ただし、現在、これらの責務をどのように遂行するかについては、各事業主の裁量に委ねられており、従業員に活動内容を開示または報告する必要はありません。

日本政府による報告・開示要件の見直しの一環として、(例えば) 事業主が業務をより適切に遂行し、従業員のDC投資の成果向上を支援するために、以下の改善が検討することが考えられます。

  • 各責務の遂行方法に関する事業主のより明確な定義または要件
  • 事業主がDC運営管理機関をより簡単かつ公正にレビューおよび比較できるよう、DC運営管理機関が公開すべき情報を拡大
  • DC運営管理機関のレビュー、運用商品のレビュー、または指定運用方法のレビューの結果と、必要に応じて次のアクションを従業員に開示するための事業主の要件

これらの変更または同様の変更は、事業主にとって追加の作業を意味する可能性がありますが、一方で、従業員の利益のために実行することが期待されている責務を遂行するためのより良い情報を得ることも意味します。

WTWは、政府の検討状況を綿密にフォローし、変更内容やその影響について、最新情報をご提供する予定です。

最後に、日本でも最近、政府がiDeCo(個人型確定拠出年金) と、年金制度の3番目の柱であるNISA(Nippon Individual Savings Account) への拠出限度額を拡大しました。

これらの貯蓄・投資の器は、任意の制度として運営されるものですが、オーストラリアにおけるスーパーアニュエーションと同様、iDeCoおよびNISAのプロバイダーの開示要件の拡大を通じて、個人の投資に対する理解と認識の向上が期待できます。これにより、個人がプロバイダーと投資ファンドをより簡単かつ公正に比較し選択することが可能になるでしょう。


出典

  1. Super fund performance over 31 calendar years (to December 2023) (Super Guide)Return to article
  2. Super Statistics (asfa)Return to article
  3. Superannuation Statistics - September 2023Return to article
  4. 2021(令和3)年度決算 確定拠出年金実態調査結果(概要版)(企業年金連合会)Return to article
  5. Inventory of superannuation trustee transparency and disclosure obligations (ASIC)Return to article

執筆者


アソシエイトディレクター
リタイアメント部門

コンサルティングアクチュアリーとして、国内企業や多国籍企業の退職給付制度の設計・運営支援に従事。オーストラリアのWTWに3年間勤務した後、2012年に東京オフィスに入社。オーストラリアアクチュアリー会正会員(FIAA)、Chartered Enterprise Risk Actuary (CERA)。


Contact us