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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

エンゲージメントの向上を通じて、人と組織の持続的な成長を促すために(前編)

2024年8月2日

従業員のエンゲージメントが高まれば、企業の持続的な成長につながると考えられています。どのようにエンゲージメントサーベイを設計・活用すれば、企業の成長によい影響を与えることができるのでしょうか?
Employee Experience
N/A

WTWでは、去る2024年4月24日、「エンゲージメントの向上を通じて、人と組織の持続的な成長を促すために」をテーマにセミナーを開催しました。

セミナーでは株式会社大和証券グループ本社専務執行役 人事担当 兼 最高健康責任者(CHO)の白川香名様をゲストスピーカーとしてお招きし、大和証券グループにおけるエンゲージメントサーベイの導入背景や取り組み状況、効果などについてお話しいただきました。パネルディスカッションでは、株式会社ベネッセコーポレーション執行役員の飯田 智紀 様をモデレーターに、白川様と弊社の岡田により、エンゲージメントサーベイ導入を意義ある取り組みにするためのポイントが語られました。

以下は、当日のセミナー内容を編集したものです。

<スピーカー紹介>


白川 香名 様

白川 香名 様(第二部スピーカー)

株式会社大和証券グループ本社

専務執行役 人事担当 兼 最高健康責任者(CHO)


飯田 智紀 様

飯田 智紀 様(第三部モデレーター)

株式会社ベネッセコーポレーション

執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)


岡田 恵子

岡田 恵子(第一部スピーカー)

マネージングディレクター、EXインターナショナル・リーダー 兼 

タワーズワトソン株式会社 取締役

Employee Experience(EX)


<第一部 エンゲージメントについて(スピーカー:岡田 恵子)>

「なぜ今、従業員エンゲージメントなのか」

従業員意識調査の変遷「満足」から「持続可能なエンゲージメント」へ

本日は、「なぜ今、エンゲージメントなのか」をテーマにお話したいと思います。弊社流に申し上げれば、「なぜ今、持続可能なエンゲージメントが重要なのか」ということです。そして、「日本の企業で何が起こり、エンゲージメントを高める上で何が重要なのか」を共有できればと考えております。

従業員が会社や仕事について何を感じ、どのように考えているのかを知るため、従業員意識調査は古くから実施されてきました。現在、従業員意識調査を全く行っていない企業の方が、少ないのではないでしょうか。

従業員意識調査は、一般的に数十問の設問で構成されています。企業経営において大切なのは、従業員意識調査の結果の何に着目して対応すれば、従業員の意識が高まり、最終的には業績を維持・向上できるのかという点です。業績が上がらなければ、今、働いている従業員の昇給もボーナスも、そしてよい従業員の採用もままなりません。

従業員意識調査を実施し、その結果を基にアクションをとり、業績向上につなげるという好循環を生み出すために、何に着目すべきか。その指標となるものは、時代とともに変わってきました。

社員意識を測定するアプローチの変遷:満足からエンゲージメントへ
従業員意識調査が行われた初期は、注目すべきは従業員の「満足」でしたが、従業員の満足度が高まれば、業績が上がるかどうかは実証されておらず、従業員の意識と将来の企業業績の関係性は、長年の研究テーマとなっていました。 - description below
そこで弊社では、従業員の意識と将来の企業業績の間に強い関係性があることを統計から検証し、「持続可能なエンゲージメント」を提唱しています。
図1:社員意識を測定するアプローチの変遷

従業員意識調査が行われた初期は、注目すべきは従業員の「満足」でした。もちろん大きな不満がないことは、今でも重要で、人材不足の現在、就業状況や環境が劣悪で大きな不満となれば、従業員の離職は免れません。しかし、従業員の満足度が高まれば、業績が上がるかどうかは実証されておらず、従業員の意識と将来の企業業績の関係性は、長年の研究テーマとなっていました。

そこで弊社では、従業員の意識と将来の企業業績の間に強い関係性があることを統計から検証し、「持続可能なエンゲージメント」を提唱しています。

「持続可能なエンゲージメント」の3要素は、「個人のエンゲージメント」「環境」「活力」

エンゲージメントという言葉は、どこから生まれたのでしょうか。エンゲージメントの概念は、「企業にとって人材は、どのような存在か」という発想から生まれました。人材は、企業にとって一番大きいコストです。それはいつの時代もまぎれもない事実ですが、一方で最大の資産、アセットでもあります。だからこそ、アセットに対するリターンを最大化させようといった考えが生まれました。

会社の机や棚はアセットであり、会社の帰属物です。しかし、人間である従業員はアセットであっても、会社の帰属物ではありません。従業員には、会社以外で過ごす時間や会社で発揮していない様々な経験と知恵を持っています。従業員の経験や知恵を会社の成長にいかに注ぎ込んでもらうかを考えると、従業員を雇うには給与が必要ですが、従業員は企業にとって「投資家」的な存在とも捉えることができます。

2000年頃、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ会長(当時)が、「これからは、会社が進む方向と志を1つにする、そして果たすべきことを理解し、動くことのできる従業員こそが、差別化の源泉だ」と発表してから、従業員意識調査の指標にエンゲージメントが使われるようになったと言われています。

以来、エンゲージメントは、「考える」(会社が目指す方向性を理解して自分ごとにできる)、「感じる」(組織の一員として働くことに誇りを持っている)、「行動する」(組織の成功のため、求められる以上のことを進んでやろうとする意識がある)、この3つで構成されると考えられるようになりました。

そうした考えが広がった直後に起きたのがリーマンショックです。社員の個人のエンゲージメントを高めるだけでは、企業業績は伸び悩む場面が生じ、その関係が揺らいだのがこの時期です。弊社が取り組んだ継続的な調査研究の結果、「持続可能なエンゲージメント」が生まれました。従リーマンショックの後、企業業績の向上のためには、個人のエンゲージメントに加え、次の2つの要素が必要であることが明らかになりました。一つが、高い生産性と成果をサポートする「環境」です。個人の会社への理解ややる気を会社の業績に結びつけるために生産性高く効率よく働ける環境が重要だと考えています。もう1つが「活力」です。昨今、「健康経営」や「ウェルビーイング」という言葉をよく聞きます。いくらやる気や環境があっても、仕事にやりがいを感じられなかったり、過重労働で疲弊していたり、あるいはハラスメントなどで心が折れてしまったりしては、やる気が続かないからです。

「個人のエンゲージメント」「環境」「活力」、それら3つの要素と将来的な業績には、非常に強い相関があることが、弊社の大規模調査から明らかになりました。現在、多くの上場企業が弊社の従業員エンゲージメント調査を利用し、組織の非財務指標として活用しています。具体的に見てみましょう。 弊社は、海外の企業も含めると、年間1万件以上の調査を実施しています。本日、登壇されている大和証券グループ様のように、グループ会社や海外子会社も一緒に参加している場合も多くあります。

弊社が実施した全企業の従業員エンゲージメント調査の結果から、3つの要素(「個人のエンゲージメント」「環境」「活力」)のスコアをダウンロードして、平均値を算出しました。3つの要素とも高い企業は紫色、個人のエンゲージメントは高いけれども環境または活力、あるいはその両方が低い企業は緑色、3つの要素すべてが平均より低い企業は黄色と、3つのグループに分けました。そして、1年後と3年後、各企業が公開する財務テータの変化を調べました。その結果、3つの要素のスコアがすべて高い企業は、業績の伸びが大きいことが明らかになりました。また、それらのスコアは、業績だけではなく、欠勤日数や離職率にも影響していることも分かりました。

現在、弊社の従業員エンゲージメント調査は海外の企業だけでなく、日本の企業様にもご活用いただいています。企業業績と「持続可能なエンゲージメント」の関係性を検証し、「持続可能なエンゲージメント」が1人当たりの売り上げや1人当たり利益率にどのような影響をもたらすのかといったことも明らかにしています。

エンゲージメントの改善には、経営陣が心理的安全性の担保されたチームになることが重要

では、「持続可能なエンゲージメント」を高めるためにはどうすればよいのでしょうか。「持続可能なエンゲージメント」には、様々な要素が影響を与えています(図2)。

まず、会社の方向性といったビジョンです。その実現を目指して、激しい競争を勝ち抜くための戦略・競争優位性。さらには、リーダーシップや組織・業務運営体制、風土・就労環境も挙げられます。そのほか、D&I()ダイバーシティ&インクルージョンもありますが、今はDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)に変わってきています。ワーク・ライフ・バランスも、ワーク・ライフ・フレキシビリティと言われようになっています。さらにウェルビーイングもあります。そして、人材や人事という要素。具体的には、この会社で働くことで、自分はどう成長でき、どのように潤うとされているのかという点です。

「持続可能なエンゲージメント」は、従業員が日々の業務の中で、上司や同僚、お客様との関係、その中で自分はこんな思いを持ったという経験の総和です。それらが「持続可能なエンゲージメント」のスコアを作り上げるのです。

「持続可能なエンゲージメント」に影響をもたらす要素

そのような要素を踏まえた従業員エンゲージメント調査を実施すると、人事部門や経営陣にとって、見たくない現実が数値で浮き彫りになることがあります。調査には、自由記述欄もあるため、従業員の率直な意見がファクトとして突き付けられます。

図3にあるような意見を見て、「我が社にもあてはまる」と感じた企業様も多いのではないでしょうか。そうした声を目にすると、次に経営陣から寄せられるのは、「エンゲージメントの重要性や我が社の課題は分かった。では、何をすればいいのか」「他社はどのような取り組みをしているのか。ベストプラクティスを紹介してほしい」という質問です。しかし、残念ながら魔法の杖はありません。

従業員エンゲージメント調査を行い、データを収集すること自体が改革への大きな第一歩です。データを基にした改善を、特定の部門に丸投げするのではなく、経営陣がデータに真摯に向き合い、会社全体の成長のベクトルを踏まえて、従業員の意識の何をどのように変えることが必要かを特定し、会社として取り組むべきことを認識することが大切です。

調査結果を受けてやるべきことが山のように出てきて、それをすべてやろうとしてうまくいったケースは一度もありません。やるべきことを絞り込み、事業のPDCAにそれをどう結びつけていくのかが重要だと言えます。ただ、事業のPDCAとは別に、従業員エンゲージメント調査のためのPDCAを回すことは、従業員の多忙感を強めるばかりで、エンゲージメント向上に寄与することは極めてまれです。そこで、見直したいのが、経営陣や管理職のあり方です。例えば、経営陣や管理職以上のチームの中で、意見交換を率直にできていなければ、従業員との意見交換もままならないはずです。まずは、経営陣や管理職が心理的安全性の担保されたチームを築くことが先決です。

また、データやファクトに向き合うことも必要です。客観的にそれらを見る癖をつけてほしいと思います。加えて、問題解決を現場の従業員に丸投げすることだけは、避けたいものです。働き方改革が進む中で、最も疲弊しているのが現場のマネージャーであり、彼らを犠牲にしないことが、非常に大切だと考えます。

「持続可能なエンゲージメント」の取り組みは、一朝一夕にはいきません。まずは自分のセルフエンゲージメントを高めていくことが求められています。自分にとって、何がエンゲージメントを高めるファクターになるのかを知ることも非常に重要だと言えるでしょう。

従業員が成長できる環境がエンゲージメントを高める

最後に、エンゲージメントを考える上で関連性の高い3つのトピックを、簡単に紹介させてください。

1つめは、心理的安全性です。心理的安全性は、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念です。イノベーションを生むためには、目的達成に向けてチーム内で安心して活発に意見交換ができることが重要です。現場の従業員にも責任と権限があるにもかかわらず、常に上司にお伺いを立てなければならない組織では、学んだことの実践もままなりませんし、挑戦も難しいでしょう。

2つめは、ウェルビーイングです。ウェルビーイングは、以前は福利厚生といった捉え方をされていましたが、弊社では、Physical(身体的側面)、Emotional(心理的側面)、Social(社会的側面)、そしてFinancial(経済的側面)の4つの要素で捉えています。Physical wellbeingは、身体的な健康。Emotional wellbeingは、健全な精神状態でいられること。Social wellbeingは、相互に助け合える関係を構築し、深めることで課題や問題にうまく対処すること。そして、Financial wellbeingは、日本ではあまり聞き慣れない言葉ですが、欧米ではインフレ傾向が続いているため、トータルリワードで、給付だけではなく、困ったときに必要な情報や支援が得られる状態が大切とされています。

そして3つめは、育成・キャリアです。近年、従業員のリスキリングが重要視され、ジョブ型雇用が広がっています。自分のスキルをどのように伸ばしていくべきか、どのようなキャリアを築いていくべきかといった従業員の不安は、以前にも増して強くなっていると思います。そのため、今後の育成・キャリアを考える上でのキーワードは、「透明性」だと考えています。例えば、上司は部下に「今後、どのような可能性あるのか」「次にどのようなチャレンジすればよいのか」といったキャリアの選択肢を提示するなどの支援をすることが必要だといえます。

ちなみに大和証券グループ様は、「持続可能なエンゲージメント」のスコアが非常に高い企業様です。調査開始時から一貫して、人材マネジメント、 キャリア育成が「持続可能なエンゲージメント」のキードライバーであり、同社の強みとなっています。そうした同社の取り組みを、紹介していただきます。

現在、エンゲージメントは、企業の成長を実現する上で非常に重要な指標であるだけでなく、「人材版伊藤レポート」で紹介されている通り、資本市場や労働市場からも注目されている重要なファクターになっています。ただ、エンゲージメントはすぐに高められるものではありません。調査から2年経ってもスコアが上がらないということもあります。

日々の仕事を通じて、自分の会社が目指す目標や戦略を肌で感じられる、それを自らの仕事に結びつけられる、よい同僚や上司から刺激を受けられる、そして新たな仕事に挑戦して認められている。そのように感じられることが、ウェルビーイングや退職率の低下、リテンションにつながり、「持続可能なエンゲージメント」の向上につながります。本日の発信が皆様の今後のお取り組みの一助となれば幸いです。

(後編へ続く)

白川氏(ゲストスピーカー)、飯田氏(モデレーター)、岡田によるパネルディスカッションの様子
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