WTWでは、去る2024年4月24日、「エンゲージメントの向上を通じて、人と組織の持続的な成長を促すために」をテーマにセミナーを開催しました。
セミナーでは株式会社大和証券グループ本社専務執行役 人事担当 兼 最高健康責任者(CHO)の白川香名様をゲストスピーカーとしてお招きし、大和証券グループにおけるエンゲージメントサーベイの導入背景や取り組み状況、効果などについてお話しいただきました。パネルディスカッションでは、株式会社ベネッセコーポレーション執行役員の飯田 智紀 様をモデレーターに、白川様と弊社の岡田により、エンゲージメントサーベイ導入を意義ある取り組みにするためのポイントが語られました。
以下は、当日のセミナー内容を編集したものです。
白川 香名 様(第二部スピーカー)
株式会社大和証券グループ本社
専務執行役 人事担当 兼 最高健康責任者(CHO)
飯田 智紀 様(第三部モデレーター)
株式会社ベネッセコーポレーション
執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)
岡田 恵子(第一部スピーカー)
マネージングディレクター、EXインターナショナル・リーダー 兼
タワーズワトソン株式会社 取締役
Employee Experience(EX)
(前編はこちら)
(企業情報)
株式会社大和証券グループ本社
業種:証券業
従業員数:14,889名(連結グループ会社等の合計数値、2024年3月31日現在)
事業内容:証券業を中核とする投資・金融サービス業
大和証券グループでは、社員の働きやすさを追求するため、これまで各種人事制度の整備や働き方改革を進めており、記名式の従業員満足度調査では、社員満足度は非常に高い水準にありました。ただ、その従業員満足度が生産性や業績の向上につながっているか検証が必要だと感じ、社員に無記名のエンゲージメント調査を実施すべきではないかと考えました。
私たちがエンゲージメント調査導入にあたって重視したのは、信頼できる専門組織に依頼することでした。調査を設計する上で、当社固有の要素を加味する必要があり、海外の高業績企業と比較するなど弊社の立ち位置を正確に把握したいと考えたからです。そうした点を考慮した結果、この分野で卓越した知見と経験を持つWTWに依頼することにしました。
大和証券グループのエンゲージメント調査は、WTWと相談しながら時間をかけて作り上げました。弊社の企業理念のほか、「大和スピリット」と呼んでいる社員の心の拠り所となる考え方、社員像のイメージ、グローバルスタンダードの考え方など、様々な角度から議論を重ね、調査内容を考えていきました。
今回の調査では、比較指標として4つの外部ベンチマーク※(日本基準値、日本金融業基準値、グローバル金融業基準値、そして最も厳しい水準であるグローバル高業績企業基準値)を設定し、客観的に自社の立ち位置を把握したいと考えました。そうしたベンチマークを利用し、今後の目標値の明確化、また他社と比較した我々の特徴を把握したいと思いました。
※WTW社独自の基準値。毎年更新され、国別及び業界別(グローバル)の両軸から活用可能。
調査の結果、グローバル高業績企業基準値と比較して、「倫理性」「誠実さ」「ウェルビーイング」「フレキシビリティ」の領域では、当社が上回っていることがわかりました。特に「タレントマネジメント」のスコアは、グローバル高業績企業と比較して9ポイントも上回っており、誇るべきものだと捉えています。
エンゲージメント調査は、組織改善に向けた情報の宝庫です。その結果を用いて様々な比較を行っています。部門ごとや部門内、属性ごとに比較し、各部門の強みや改善すべき課題を把握できます。さらに、同じ部門の組織間のスコアを比較すれば、マネジメント層のスキルギャップがどの程度あるのかといった状況も見ることが可能です。
また、性別や年代など、属性ごとの分析により、既に充足している領域と今後の課題領域を特定しています。そうした定量分析に加えて、記述設問での自由回答を掛け合わせることで、組織パフォーマンス向上のために何が必要なのかを把握して、継続的な改善アクションにつなげることができました。
エンゲージメント調査導入にあたって大切なのは、信頼できる専門組織との連携です。私たちだけでは、エンゲージメント調査をこのように高次元で活用することは難しかったと考えています。
弊社では、エンゲージメント調査の結果を実効性のあるアクションにつなげるため、WTWに解析を依頼しています。これまでの4回の調査では、毎回、示唆に富む解釈や提案をいただきました。WTWの解析と社内での分析結果の両方を踏まえることで、弊社がこれから進むべき方向性を整理できました。そして、社内でその方向性を共有することで、取り組みが深化したと考えています。
第三部のトークセッションでは、エンゲージメント調査導入を意義ある取り組みにするためのポイントが語られました。
飯田:白川様、御社でエンゲージメント調査を導入する際には、様々な苦労があったと思います。導入時にはどのようなことが大切だとお考えですか。
白川:エンゲージメント調査を、思いつきで実施するといった次元の取り組みにはしたくないと考えました。一番大切なのは、経営陣が「エンゲージメント調査は大切なものだ」と腹落ちすることです。経営陣がエンゲージメント調査に関心がなく、重要視していなければ、従業員にもその価値や意義が伝わらないと思いました。
弊社では、エンゲージメント調査導入当初、人事セクションとWTWが連携し、どのような調査を行い、どのような方法で調査結果を社内に浸透させれば、課題改善につながるかを相談しました。
例えば、1回目のエンゲージメント調査実施後、WTWの岡田様に弊社の役員会議にお越しいただき、導入趣旨や調査結果を説明していただきました。それが、大変有意義な機会だったと感じています。経営陣に「エンゲージメント調査をWTWに依頼している」と伝えていても、同社の卓越した専門性を理解し切れない可能性があります。実際にどのような方が、どのような言葉を使って、どのように結果を解釈しているのかを、経営陣が見聞きする機会を設けたことが、経営陣がエンゲージメイトサーベイの重要性を理解する第一歩になったと私自身は思っています。
加えて、マネージャーもエンゲージメイトサーベイの重要性を理解することが必要です。そのため、マネージャー層にも「エンゲージメント調査は情報の宝庫であり、うまく活用して組織状態の改善につなげてほしい」」と繰り返し伝えています。エンゲージメント調査は組織ごとに結果が出るので、マネージャーの通信簿とも言えるのです。
飯田:ありがとうございます。次は岡田様にお聞きしたいと思います。先ほどの発信の中にも、エンゲージメント調査の結果を上手に生かしている企業と、生かし切れていない企業があるとお話しされていました。今、白川様がおっしゃっていたように、経営陣の理解は大きなポイントになるのですね。
岡田:人事部はエンゲージメント調査を実施したいけれども、経営者や役員の同意が得られないという企業が少なくありません。現在、これほど従業員のエンゲージメントが注目されている時代において、その重要性を感じられないのであれば、実施したとしても有益な調査となる可能性は少ないでしょう。従業員が働いている中で何を考え、どのような経験をして、それがどうエンゲージメントにつながるのか。そうした点に敏感であるかどうかは、これからの企業経営において欠かせないと言えます。
経営陣がエンゲージメント調査の必要性を理解するためには、大和証券グループ本社様のように、まず導入の窓口となる人事の皆さまがその価値や意義に納得し、ご自身の言葉で経営陣に説明することが大切だと考えています。拙速にエンゲージメント調査を実施しても、うまくいくものではありません。大和証券グループ本社様の事例は、導入時に丁寧なプロセスを経たからこそ、成功したケースと言えるでしょう。
飯田:エンゲージメント調査の意義は参加者の皆さんにも伝わったと思います。ただ、設問を1から考えるなど、導入時は苦労が多いという印象を受けました。岡田様、よい解決策はありますか。
岡田:白川様のお話にあったように、お客様の企業にとって、何が一番大事なのか、目標を達成するために調査で何を検証したらよいのか。まずそれを明確にして仮説を立て、丁寧に調査を設計するしかないと考えています。
大和証券グループ本社様では、初回のエンゲージメント調査から1年後、様々な人事施策や人材資本に対する施策を、エンゲージメントの観点から見直しました。そして、調査結果は、統合報告書などの社外に向けた発信にも活用しています。
昨今、Employee Value Proposition(エンプロイー・バリュー・プロポジション。以下、EVP。)が注目されています。これは、企業が従業員に提供できる価値という意味です。EVPをエンゲージメント調査などデータに裏打ちされた調査と紐づけて出していくことは、資本市場だけでなく、人材採用における企業のイメージアップにもつながります。大和証券グループ本社様は、エンゲージメント調査の結果を社内での活用にとどまらず、社外にも発信している点がすばらしいと思います。