~取締役会の「役割」にフォーカスしたアプローチ~
取締役会実効性評価は、取締役会が本来の機能・役割を発揮できているかを各人の自己評価等をもとに分析するプロセスであり、わが国では2015 年制定のコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」/補充原則4-11③)の要請を受け普及した。その後、2度にわたるCGコード改訂を経て取締役会への期待は多様化し、評価においても構成・運営等の「形式」のみならず、監督のあり方や戦略・サステナビリティに係る議論の視野・深度等の「実質」が重視されるようになった。
WTWの取締役会実効性評価のアンケートは、その「実質」の評価を念頭に、以下3大項目で構成されている。そして、取締役会のミッションとされる「ステークホルダー資本の管理者としての、長期的な価値創造に向けた責務(スチュワードシップ)」を果たすために必要な3つの役割を、大項目1の「取締役会の機能」で挙げている。その評価結果を踏まえ、それらの役割の更なる発揮に向けたアクションプランを、他の大項目である「機能を支える基盤(大項目2)」や「個々の取締役のパフォーマンス(同3)」との関係性も探りながら検討する。
大項目1「取締役会の機能」で挙げた3つの役割に関し、評価のポイントや事例を以下ご紹介する。
01
長期的な価値創造に向け、「社会課題」の解決を事業戦略へ統合させていく視点からの経営方針・長期ビジョン及び戦略目標の設定と、その達成状況の監督プロセスを評価する。経営戦略の議案では、大局的な議論に至らず枝葉末節な質疑に終始してしまうとの悩みもよく聞かれるが、以下のような評価項目をあえて設定し、認識共有を図ることで改善されたケースもある。
なお中計の最終年度は、現中計振返りと新中計策定の両面から戦略の議論を深めるタイミングであることから、外部機関を活用したインタビュー等の深度ある評価を行うことも有用である。
02
指名・報酬領域を対象とし、法定・任意の指名・報酬委員会も評価する。これらの委員会については、メンバー構成や議題、資料等の一般的事項のみでなく、報酬設計や後継者計画等への関与・モニタリングの実効性を、以下のような評価項目を通じて具体的に確認することを推奨する。報酬設計や後継者計画等を中計策定等のタイミングで整備・更新するケースが多くみられるが、その後も適切に運用されるかどうかは「メンテナンス」、即ち指名・報酬委員会による関与・モニタリングのあり方次第であるからである。
03
リスクテイクを支える基盤として「リスクマネジメント」を監督できているかを評価する。経営会議等の監督下の「リスク管理委員会」がこれを一義的に統括している企業では、同委員会を主体としたPDCAプロセス(組織横断的なリスクの把握・評価・対応プロセスを取纏め、重要事項については取締役会へ報告)を取締役会として監督できているかを評価するケースもある。
グループ・ガバナンスの観点では、グループ本社がグループ各社(子・関連会社)を、リスクの重要性に応じた集権化・分権化のバランスをとりつつ横串を通し管理するよう求められる。そのためグループ本社の取締役会では、監査担当役員や内部統制部門から、グループを俯瞰した重要リスクの所在と対応状況につき報告を受けるが、その裏付けとしてグループ各社の経営層も同様のリスク認識・感度を共有している旨の心証を得たいと考える。
このようなニーズへの対応策として、グループ本社とグループ各社が、共通の枠組みの取締役会実効性評価を各々実施することが一案である。その結果の相互対比を通じ、経営層による重要リスクの認識・理解やグループ各社間の情報連携への評価において両者間で乖離がないかを確認のうえ、どちらかで課題が把握された場合はグループ連携を軸とした改善策を検討することが有用である。
ちなみに欧州では、グループ本社の取締役会議長やリスク委員会等の各委員長(いずれも社外取締役)が、主要各社の取締役会議長や当該委員長と情報連携する事例もみられる。経営層同士のダイレクトなコミュニケーションを通じてグループ共通の課題認識を共有していることが窺われる。
メガバンク(法人取引・投資銀行業務・グローバル監査等)、大手監査法人・大手信託銀行(ガバナンス・コンプライアンス・内部監査等のコンサルティング)を経て、WTW入社。取締役会セミナー講師、金融財政事情研究会等の各種機関主催セミナー講師にも多数従事。共著・寄稿も多数。