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監査役と社外取締役との情報連携のあるべき姿

~監査役監査の実効性向上の観点から~

執筆者 佐川 裕一 | 2024年11月12日

ガバナンス改革を受け、ステークホルダー視点に立った積極的・能動的スタンスでの監査役監査が期待される。その実現には「外部の視点からフィードバックを得るための情報提供」「『間接的』な議決権行使のアプローチ」「経営者指名・報酬領域への高い感度」を意識した社外取締役との情報連携が有用である。
Executive Compensation
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監査役は、取締役会や経営陣の職務の執行の適法性を監査する独任制の機関であるが、昨今のガバナンス改革の潮流のもと、2015年制定(2018・2021年改訂)のコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」)で以下3つの取組みが要請されている。

CGコードにより監査役に期待される取組み
CGコードにより監査役に期待される取組み
CGコード 取組み 内容
1 原則4-4.
原則4-5.
ステークホルダー視点での監査 取締役の職務の執行の監査等に際しては、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場で適切な判断を実施
2 原則4-4. 積極的・能動的な スタンスでの発言 自らの守備範囲を過度に狭く捉えることなく、能動的・積極的に 権限を行使し、取締役会や経営陣へ適切に意見を発信
3 補充原則
4-4①
社外取締役との 情報連携 社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力 を強化できるよう、社外取締役との連携を確保

上記1・2は、CGコードが監査役に対し、ステークホルダー視点に立った、より積極的・能動的スタンスでの監査を要請していることを示している。そして、それを実現するための取組みとして、上記3で示された「社外取締役との情報連携」が有用であるものと筆者は考える。なぜなら、上記1の「ステークホルダー視点での監査」は、「株主の代理人」である社外取締役との対話の充実化が出発点となるものであり(後述Ⅰをご参照)、同じく上記2の「積極的・能動的なスタンスでの発言」も、社外取締役から多様な意見を聴取することで様々な課題認識や気づきが得られ、意見発信のフィールドも広がっていくからである。ただし、それらは「社外取締役との情報連携」が、コードで書かれたような「社外取締役による情報収集」に止まることなく、監査役からも社外取締役の意見・提言を積極的に引き出していく「双方向の対話」となることが前提となる。

この「社外取締役との情報連携」の主な担い手は常勤監査役であるが、その効用を最大限に引き出し、監査役監査の実効性向上に繋げていくために意識すべきポイントとして、「外部の視点からフィードバックを得るための情報提供」「『間接的』な議決権行使のアプローチ」「経営者指名・報酬領域への高い感度」の3つが挙げられる。以下、各々の概要をご説明したい。(注:いずれも監査役会設置会社を想定したものであり、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社には必ずしも適応するとは限らない点をご了承願いたい。)

Ⅰ.外部の視点からフィードバックを得るための情報提供


グループガバナンス監査等に係る社外取締役との情報連携において、社外取締役から有意なフィードバックを得るためには、監査役からのリスク認識等の根拠・背景等も含めた十分な説明が必要


昨今、大手企業を中心に、本社でなくグループ会社で不祥事が生じる事例が散見される。それが海外グループ会社であれば、当該国又は域外適用の法令に基づくペナルティが課され、経営への影響も甚大なものとなり得る。そのためグループ本社主導の「企業集団の内部統制システム(グループガバナンス)」の監査が、同システムの監督責任を負う取締役会でも特に重要視されている。

監査役と内部監査部門との連携による当該監査では、経営陣による組織態勢・枠組みの構築・運用プロセスは勿論のこと、それを支えるグループ各社から親会社への適時適切なレポーティング、グループ各社の規模・特性に応じたリスクマネジメント、及びグループ各社の取締役・従業員による法令等遵守態勢について、横串を通したリスクベースでの効率的な検証を行うことが求められている。そのため本社の常勤監査役におかれては、本社経営トップとコミュニケーションをとりつつ、日常的に2つのルート、即ち、①グループ主要各社の監査役との連携(各社の経営課題を「縦軸」で深掘)、及び②本社の内部監査部門との連携(グループ横断的なリスクの所在と対応状況を「横軸」で把握)を通じた情報収集を行い、そこで見出されたリスク認識等をもとに監査計画を策定・遂行されているものと考える。

しかし昨今では新たに、「社内の常識は世間の非常識」と表現されるような組織内では気づかぬ問題点や、グループの垣根を越えたバリューチェーン上のリスクの存在等も注目されるところ、社外者の視点も加味したレビューが望まれるケースも増えている。そのための機会のひとつとして「社外取締役との連携」*が挙げられるが、一般的に社外取締役は業務執行に係る情報に必ずしも通じていないところ、有意なフィードバック(外部の視点からの気づき・意見・示唆)を得るためには、まず監査役側からのグループガバナンスの現状やリスク認識に係る十分な情報提供が必要になるものと考える。その際には、監査役としての上記の「縦軸」「横軸」のネットワークを意識した、リスク認識に至る根拠・背景等の補足説明も行えば、社外取締役の理解もより一層深まるであろう。その結果として有意なフィードバックが得られれば、それらを監査計画のプロセスやスコープに反映することで、「ステークホルダーの視点での監査」に一歩近づき、株主からの受託者責任の遂行にも繋がり得るものと考える。

*注: 社外監査役との協議でも同様の効果が想定され得るが、社外監査役も監査役監査の当事者であるところ、「外部の視点」という観点から、ここでは敢えて「社外取締役との情報連携」を挙げている。

Ⅱ. 「間接的」な議決権行使のアプローチ


社外取締役との情報連携を通じ、社外取締役が監査役の課題認識を踏まえ議決権を行使するようになることで、監査役にとり「間接的」な議決権行使(実質的な「妥当性」監査)と同様の効果が実現


CGコード4-4①は、監査役に対し「社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役との連携を確保」することを求めている。これは、日常的な業務執行に係る情報の入手が困難な社外取締役が、監査役からリスク情報や課題認識等の共有を受けることで必要な情報・知識が補完され、それをもとに取締役会でも積極的な発言を行うようになることを期待した条文である。しかし一方で、この情報連携は、議決権を持たない監査役にとり、社外取締役を通じた「間接的」な議決権行使を可能にし得るものとも解釈される。即ち社外取締役が、監査役からヒアリングした課題認識に共感すれば、それを踏まえた経営判断や議決権行使を(リスクテイクを伴う経営戦略等の「攻め」の議題においても)行うようになることが期待できる。勿論、そのためには上記Ⅰでも述べたとおり、社外取締役からのフィードバックや共感が得られるような、監査役側からの十分な情報提供が前提となることを付言しておきたい。

ちなみに監査等委員会設置会社では、取締役でもある監査等委員が「適法性」のみならず「妥当性」の監査にも議決権を活かし取組むよう期待されている。監査役会設置会社でも監査役と社外取締役との連携により、実質的に同様の効果を発揮し得るものと考えられる。

Ⅲ. 経営者指名・報酬領域への高い感度


経営者指名・報酬に係る課題把握が、内部統制に係る監査において必要なケースもあり得ることから、監査役は指名・報酬委員の社外取締役との連携によるモニタリングに努めることが有用


経営者の指名・報酬に係る課題については、監査役としても可能な範囲でモニタリングすることが望まれる。なぜなら、監査役が内部統制に係る監査を実施するうえで、「経営陣の過大なリスクテイクを誘引する評価・報酬体系になっていないか」「本社経営層は、グループ主要各社の経営陣のパフォーマンス・資質をどう評価をしているか」等の問題意識が、内部統制を支える本社及びグループ各社の従業員の行動特性に課題が見られた際の原因分析に必要な要素となり得るからである。

そのため、指名・報酬委員である社外取締役との情報連携の場では、指名・報酬に係るテーマもアジェンダに加え、客観的かつ忌憚なき意見のヒアリングに努めることが監査役には推奨される(注:後継者候補や各役員の評価等、一定の情報の秘匿性には留意することが前提となる)。

ちなみに監査等委員会設置会社では、監査等委員会が、監査等委員以外の取締役の選任・報酬等につき株主総会で意見を述べることができる「意見陳述権」を有している。そして、その権限行使のため監査等委員が指名・報酬委員会メンバーも兼務する、又は同委員会との情報連携に注力するケースも多くみられる。上記に鑑みれば監査役にとっても、社外取締役との連携を通じ、それに準じた情報把握の取組みに努めることが有用と考えられる。

執筆者


ディレクター
経営者報酬・ボードアドバイザリー

メガバンク(法人取引・投資銀行業務・グローバル監査等)、大手監査法人・大手信託銀行(ガバナンス・コンプライアンス・内部監査等のコンサルティング)を経て、WTW入社。取締役会セミナー講師、金融財政事情研究会等の各種機関主催セミナー講師にも多数従事。共著・寄稿も多数。


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