~WTW(ウイリス・タワーズワトソン)調査結果~
【プレスリリース / 東京】 2022年8月16日(火) -- 世界をリードするアドバイザリー、ブローキング、ソリューションのグローバルカンパニーであるWTW(NASDAQ:WTW)は、役員報酬のKPIとしてESG指標を採用する企業の状況等について、TOPIX100構成企業を対象とした調査を実施しました。
※各社の有価証券報告書、株主総会資料、統合報告書等における役員報酬等の開示を基に分析・集計
2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や、人材の多様性確保等の要請がより一層と高まるなか、2023年3月期の有価証券報告書より、こうしたESG課題への取組状況等の開示が義務づけられる予定である。
他方で、ESG課題への取り組みを促進するため、役員のインセンティブ報酬をESG指標に連動させる事例がグローバルに急増している。本調査は、日本におけるESG指標の採用がどの程度進んでいるかを分析するとともに、今後の各社の取り組みの参考となるよう、具体的なESG指標の事例を紹介することを目的としている。
① 2022年の役員のインセンティブ報酬にESG指標を採用する企業は、昨年から倍増し、TOPIX100構成企業の62%となった。これは昨年時点における米国並みの普及率である。
② 役員のインセンティブ報酬と連動させる具体的なESG指標は、CO2排出量の削減をはじめとした気候変動などの地球環境問題への対応に関する指標を採用する事例が最も多い。次いで、外部のESG評価機関の評価(ESG関連Indexへの採用やESGのレーティング)をKPIとする事例、従業員のエンゲージメント(外部専門機関による調査結果等)をKPIとする事例と続く。
③ ESG指標の反映先として、欧米では短期インセンティブ(年次賞与)のKPIのひとつに組み込む事例が多いが、日本では、長期インセンティブ(株式報酬等)のKPIとして組み込む事例も同程度見られた。
※調査対象:TOPIX100構成企業のうちESG指標を役員報酬のKPIに採用している62社
④ 役員報酬に反映するESG指標の具体的な事例は以下のとおり (詳細は開示事例集参照)
会社名 | STI/LTI | 主なESG指標 |
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旭化成 | LTI | 働きがい(メンタルヘルス不調による休業者率)、 ダイバーシティ(ラインポスト及び高度専門職における女性の占める割合) |
アサヒグループHD | LTI | サステナビリティ指標(CO2・プラスチック・コミュニティ・責任ある飲酒・DE&I等)、 外部評価(CDP気候変動・水セキュリティ、FTSE、MSCI) |
味の素 | LTI | 従業員エンゲージメント、中期経営計画に掲げるESG目標 |
オムロン | LTI | 温室効果ガス排出量、エンゲージメントサーベイのスコア、外部評価(DJSI) |
キリンHD | LTI | 中期経営計画で掲げる「環境」「健康」「従業員」に関する具体的なKPI |
小松製作所 | LTI | 環境負荷低減(CO2排出量、再生可能エネルギー使用率)、 外部評価(DJSI、CDP気候変動・水セキュリティ) |
資生堂 | LTI | 女性管理職・リーダー比率、CO2排出量、外部評価(女性活躍、ESG全般) |
積水ハウス | LTI | E(環境)、S(社会性向上)、G(ガバナンス)それぞれについて、具体的なKPIを設定 ※例えば、Sは、女性管理職人数、男性育児休業取得率、月平均総労働時間等 |
セブン&アイ HD | LTI | CO2排出量、従業員エンゲージメント |
大和証券G本社 | STI | SDGs関連ビジネスへの投資残高、SDGs債リーグテーブル(順位)、 女性取締役比率、女性管理職比率、従業員満足度 |
大和ハウス工業 | LTI | CO2排出量(事業活動、建物使用段階)、外部評価(CDP気候変動) |
日本電信電話 | STI | 温室効果ガス排出量、女性の新任管理者登用率 |
富士通 | STI | 従業員エンゲージメント、顧客NPS(Net Promoter Score)、 外部評価(DJSI, CDP気候変動) |
本田技研工業 | LTI | ブランド価値、従業員活性度、外部評価(DJSI) |
※外部評価(ESG評価機関の評価)
DJSI:Dow Jones Sustainability Indices
CDP:CDP Scores (Climate change / Forests / Water Security)
MSCI:MSCI ESG Indexes / ESG Ratings
FTSE:FTSE Russell Indexes / ESG Ratings
出所:各社開示資料を基に2022年度の主なESG指標を掲載
経営トップ自らが、気候変動をはじめとしたESG課題への対応に本気で取り組んでいることを示すため、業績連動報酬のKPIにESG指標を組み込む事例が急増している。日本のトップ100社のうち6割以上が採用するなか、そのうち半数は2022年に導入したばかりである。
日本は欧米に比べてESG課題への対応が遅れていると指摘されることも多いが、一方で、昨今のESG投資の潮流よりずっと以前から日本企業に根付いている取り組みもある。しかし、パーパスに基軸を置いた経営がグローバルに進むなか、これを中心としたESG戦略の策定やマテリアリティの特定が、欧米に比べて遅れていた(時として言語化されていなかった)側面は否めない。それが、規制の後押しやCovid-19拡大の影響もあって、ここ数年で一気に進み、価値創造のストーリーのなかで特に重要なESG指標を開示・説明できる状況になってきたことが背景にあるものと考えられる。
このような視点で今回の調査結果を見てみると、ESG指標として採用割合の高い「気候変動などの地球環境問題への対応に関する指標」や「従業員エンゲージメント」、「ダイバーシティ&インクルージョン」などは、まさに、これまで日本企業の対応が遅れていたESG課題であることに改めて気づかされる。もっとも、日本におけるESG評価は緒に就いたばかりであり、今後の運用のなかで試行錯誤を繰り返しながら、また、ステークホルダーとの対話を重ねながら、より実効性のあるものに改善されていくことが期待される。
他方で、ESGへの関心が高まるなか、あまり注目されていないが、(多くの日本企業に共通する課題といえる)株価・時価総額の向上を目的として、TSR(株主総利回り)を役員報酬のKPIとして採用する企業が、じわじわと増えている。2022年には、日本のトップ100社のうち4社に1社がこれを採用するまでになってきた。社会や企業のサステナビリティの視点からESG指標が重要であることは疑う余地はないが、欧米に比べてPBR1倍未満の企業が圧倒的に多いなか、グローバル競争を勝ち抜くためには、株価・時価総額向上の意識(言い換えると、市場からの成長期待をあげる意識)をより一層高める必要があるのかもしれない。
*TSR(株主総利回り)とは:株主にとっての投資の総合利回りであり、一定期間におけるキャピタルゲインと配当を投資額(期初の株価)で割った比率をいう。2019年3月期より有価証券報告書の主要な経営指標等の推移の欄に開示が義務付けられている。TSRは欧米におけるLTI(株式報酬等)の典型的なKPIであるが、日本においても徐々に普及しつつある。本調査では、TSRに類似する指標として、配当を考慮せず株価だけで評価する事例や、時価総額で評価する事例等も含めて集計している。
WTW(NASDAQ:WTW)は、企業に対し、人材、リスク、資本の分野でデータと洞察主導のソリューションを提供しています。 世界140の国と市場においてサービスを提供しているグローバルな視点とローカルな専門知識を活用し、企業戦略の進展、組織のレジリエンス強化、従業員のモチベーション向上、パフォーマンスの最大化を支援します。
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資料:役員報酬と連動させるESG指標の開示例 | 2.8 MB |