【プレスリリース / 東京】 2023年10月11日(水) ー 世界をリードするアドバイザリー、ブローキング、ソリューションのグローバルカンパニーであるWTW(NASDAQ:WTW)は、役員報酬のKPIとしてESG指標を採用する企業の状況等について、TOPIX100構成企業を対象とした調査を実施しました。
※各社の有価証券報告書、株主総会資料、統合報告書等における役員報酬等の開示を基に分析・集計
2023年3月期の有価証券報告書より、人的資本や多様性を含むサステナビリティに関する取り組み状況等の開示が義務付けられ、各社におけるESG課題への対応が加速しています。また、ここ数年で、各社におけるESG戦略の策定やマテリアリティの特定が進み、役員報酬のKPIとしてESG指標を採用する企業も急増しています。本調査では、昨年に引き続き、日本におけるESG指標の採用がどの程度進んでいるかを分析するとともに、今後の各社の取り組みの参考となるよう、具体的なESG指標の事例を紹介することを目的としています※1。
※1 調査担当:WTW 経営者報酬・ボードアドバイザリープラクティス
・(E) 環境指標では、GHG排出量に次いで、再生可能エネルギーの使用を採用する事例が多い。その他の環境指標には、環境負荷の少ない製品の増産やごみの削減をはじめ、各社の業態に合わせた多様な指標が含まれる。
・(S) 社会指標では、従業員エンゲージメントに次いで、ダイバーシティ&インクルージョンや顧客サービスに関する指標(Net promoter scoreや顧客満足度等)を用いる事例が多い。
・(G) ガバナンス指標のうち、目立って採用が多いのはESG評価機関の評価であり、人権・コンプライアンスを含むそれ以外のガバナンス指標を採用する事例は、増加傾向ではあるものの少ない。その他のガバナンス指標には、開示の充実や取締役会の実効性評価等が含まれる。
・LTIに組み込まれる場合は全社実績を反映する事例が多い一方で、STIに組み込まれる場合は、役員個人の評価の一部に組み込まれているケースも多く見られた。
・ESG評価のウエイトはSTIまたはLTIの20%程度を基準として、比較的ウエイトが大きいところでは40%程度、小さいところは業績結果反映後に±10%程度の調整を行うに留めている。
※詳細は本ページ下部に掲載の開示事例(pdf)参照
企業名 | 昨年からの主な変更 | 全社ESG指標の概要 | |
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アステラス製薬 | ESG全社評価の新規導入 | STI | 業績評価の調整指標(±10%)として、環境・組織や人材への取り組み・顧客サービスに係る指標等の評価を反映 |
みずほフィナンシャルグループ | ・ESG評価ウエイトの 引き上げ ・ESG指標の変更 |
LTI | 業績連動部分の40%を、気候変動への取り組み・従業員エンゲージメント・インクルージョン・顧客満足度・ESG評価機関の評価を含む、サステナビリティ評価に連動 |
日立製作所 | ESG全社評価の新規導入 | STI | 評価の20%をGHG排出量・従業員エンゲージメント・操業の安全性を含むサステナビリティ評価に連動 |
LTI | 業績評価とは別に、中期経営計画最終年度に、従業員エンゲージメント・ダイバーシティ・人財育成等の目標を達成した場合のみ、基準額の10%相当の株式を追加的に付与 | ||
味の素 | ・ESG評価ウエイトの 引き上げ ・ESG指標の変更 |
LTI | 評価の40%を、GHG排出量・従業員エンゲージメント・女性管理職比率・顧客サービスに係る指標等に連動 |
住友商事 | ESG全社評価の新規導入 | LTI | 株価評価の調整指標(±20%)として、気候変動・女性活躍推進・従業員エンゲージメントの評価を反映 |
りそな ホールディングス |
ESG全社評価の 新規導入 | STI | 評価の10%をサステナビリティ長期目標に対する進捗状況の評価に連動 |
LTI | 業績評価の調整指標(±10%)として、ESG評価機関の評価を反映 | ||
オリックス | ESG全社評価の 新規導入 | STI | 業績評価の調整指標(±30%)として、オリックスグループのESG関連重要目標の進捗状況の評価を反映 |
日本電信電話 | ESG指標の追加 | STI | 評価の12.5%をGHG排出量・女性新任管理者登用率・従業員エンゲージメントに連動 |
東京海上 ホールディングス |
ESG評価ウエイトの 引き上げ | STI | 評価の20%を従業員エンゲージメント・サステナビリティ戦略に係る指標に連動 |
日本を代表するプライム市場上場企業の多くが、もはや当然のことのようにESG指標を役員報酬に反映することを検討するようになった。経営トップがESG課題に本気で取り組み始めていることの表れといえる。他方、ESG指標の導入が先行していた米国では、ESG指標による「報酬かさ上げ」の問題も報じられているが、そもそもインセンティブ報酬(特に株式報酬)の付与水準が米国企業に比べて格段に低い日本では状況が異なる。ESGを含む企業のサステナビリティに係る取り組みは、その成果が業績に表れるまでに時として非常に長い時間がかかる。そして、その成果は、長期的には株価に反映されるところ、インセンティブとしての実効性を高めるためには、ESG課題への対応状況に応じて株式を付与し、それを長期的に保有して貰うような仕組みは効果的である。
今回の調査結果で特徴的だったのは、従業員エンゲージメントやD&IをESG指標として採用する企業が、一段と増えたことである。近年、株主・投資家からの人的資本投資への要請が高まり、政府の成長戦略や2021年のCGコード改訂の後押しもあって、企業が従業員エンゲージメントの向上や多様な人材の確保・育成に対して投資しやすい環境(言い換えると、経営戦略の中核に人的資本投資を据えやすい環境)が整ってきたことが背景にある。特に、多様な人材の活用は、人材獲得競争が激しくなるなか、イノベーションの源泉としても、各社の最重要課題になりつつある。
一部の国や地域で反ESGの動きやESG投資の停滞が指摘されているものの、グローバルには引き続き気候変動をはじめとしたサステナビリティ課題への対応の重要性に疑いの余地はない。そして、企業や社会のサステナビリティを意識した経営は伝統的に日本企業の得意とするところである。もっともグローバル市場で勝ち抜くためには、資本収益性や株価を意識した経営も同様に重要であるところ、これらを両立した経営を推進するなかで、新たな価値創造のストーリーが生まれることを期待したい。
WTW(NASDAQ:WTW)は、企業に対し、人材、リスク、資本の分野でデータと洞察主導のソリューションを提供しています。 世界140の国と市場においてサービスを提供しているグローバルな視点とローカルな専門知識を活用し、企業戦略の進展、組織のレジリエンス強化、従業員のモチベーション向上、パフォーマンスの最大化を支援します。
私たちはお客様と緊密に協力して、持続可能な成功への機会を見つけ出し、あなたを動かす視点を提供します。
タイトル | ファイルタイプ | ファイルサイズ |
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2023年度 役員報酬におけるESG評価の他社事例 | 3.4 MB |