グローバル企業を対象にEXの実践度や課題を調査したWTWの「2021 Employee Experience Survey」によると、回答企業のうち約9割がエンプロイー・エクスペリエンス(以降EX)を組織にとっての最優先事項と考えており、成長の突破口として従業員のEXに変革をもたらそうと模索しています。
従業員意識調査結果と企業の将来的な業績との間に、現時点で最も強い関係をもたらすものが、従業員のエンゲージメントであり、弊社ではこれを「持続可能なエンゲージメント」と定義しています。さらに近年の弊社の高業績企業に関する研究では、従業員の高いエンゲージメントを促進する要素は、組織の中で得る様々な体験とそれに伴う感情の積み重ねである「エンプロイー・エクスペリエンス」(従業員体験:EX)だということが発見されています。
※詳細はこちらの記事で詳しく解説されておりますので、ご興味のある方はぜひご一読ください。
多くの企業がEXの重要性を認識する契機となったのが、新型コロナウイルスの感染拡大による働き方の変化です。これに加えて日本では近年のエンゲージメントに関する関心や従業員エンゲージメント調査結果の開示の動向も相まって、現在多くの企業が自社のEXを高めるための戦略を構築しています。前述の「2021 Employee Experience Survey」でも、事業戦略とEXが一体化した組織は、より大きな成功を収めることが検証されており、従業員の生産性向上や従業員離職率の低下などがその効果として挙げられます。
従業員のEXを高めるための施策として、人事制度の改定やハイブリッドワーキングなどの新しい働き方の導入、ウェルビーイングを重視した福利厚生制度の見直しなどが実施されています。そして、このような社内の環境変化を効果的なものとする上で、変化を従業員に的確に伝える、変革コミュニケーションが大きな影響をもたらします。本記事では、EXを促進するための変革コミュニケーションのポイントをご紹介します。
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組織と従業員の間に真のつながりを作るには、メッセージを伝えるトーンやスタイルに加え、コミュニケーションをする対象者の文化的背景などへの配慮が必要です。そのため、従業員に情報を発信する場合、相手が一般社員か管理職か、本社か現場か、新卒社員か定年間近など、組織内のさまざまな従業員のセグメントに合わせてメッセージを調整することが効果的です。さらに、それぞれのオーディエンスに対してカスタマイズされたパーソナルなメッセージを発信するだけでなく、対象とする相手が最も興味関心を持つトピックや社内の取り組みに紐づけてメッセージを作り上げることで、コミュニケーションの効果はさらに高まります。
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新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年以降、この2年の間に、家族のために犠牲を払ったり、今までと大きく異なる働き方にシフトチェンジした従業員が多くいます。また、解雇を言い渡されたり、人生の大きな変化を経験したり、新しい生活に適応することを求められた人もいます。このような大きな変化や苦難を乗り越えた従業員にとって、目まぐるしく変化する組織に「次」を見据えた変化を期待されることは、時にプレッシャーにもなります。変革コミュニケーションにおいては、その状況に十分な配慮を示しながら、今という瞬間をとらえ従業員に共感する、そして一体感、つながり、共有体験を生み出すことが大切です。
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従業員の学習意欲を促進するために、人材アセスメントや教育システムを導入することは素晴らしい取り組みです。ただし、これらが従業員にどのような価値があるのかを従業員自身に実感してもらうためには、そもそもの目的を明確に伝える必要があります。この例だけに限らず、新たな変革を推進する場合、組織は「あなたは大切な社員であり、あなたの貢献は組織にとって重要であり、あなたには成長の機会がある」という根本的なメッセージを従業員に実感してもらうことが求められます。その際に、ただ包括的な枠組みを説明するだけでは、イメージが抽象的過ぎて、従業員が自分事として咀嚼することは難しいかもしれません。そのため、従業員の職群などのセグメントに応じて、想定される変化や今後の青写真を具体的に示すことで、組織レベルでの変化という文脈が従業員自身にとっての変化という文脈に置き換わり、変化へのハードルを下げることができます。また、この青写真は、自身のキャリアバンドやレベル、等級を超えた新しい機会を考える意欲の促進にもつながります。ただし、従業員の中には、現状に満足し、無理に負荷がかかるような変化を望んでいない社員もいるので、それぞれの変化に対する姿勢への配慮も意識することが大事です。目的を共有し、従業員が企業理念の体現に不可欠であることを示し、組織の未来を共に歩んでいくという実感を従業員に持ってもらうことが何より大切です。
04
マーケティングは、適切な対象者に適切なメッセージを訴求することに主眼が置かれていますが、マーケティングの領域で活用されているアプローチの多くは、従業員コミュニケーションにも有効です。(1)従業員グループごとにタッチポイントの数を計画し、過度のメッセージ発信を避ける、(2)さまざまなチャネルを使用して、それぞれの従業員グループにアプローチする、(3)簡潔に伝えたいことをまとめる、(4)管理職などのコミュニケーションをする側の人には一貫性あるメッセージを発信してもらう、(5)企業文化に合致したメッセージを心掛ける、(6)勤続年数や、キャリアレベル、人口統計データなどの客観的なデータを組み合わせて戦略を調整する、(7)情報を大多数に伝えることだけが目的の大雑把なコミュニケーションに終始しない。これらを「マーケティング・ルール・オブ・セブン(7つの法則)」と呼ぶこともあります。
これらの要素を自社の変革コミュニケーションに取り入れることで、円滑かつ効果的に組織に変化を促すことできます。これが結果として、従業員のエンゲージメントにつながり、EXの向上をもたらします。ただし、これらの要素を確実に実践する上では、「パーソナライズされたアクセスの良いプラットフォーム」と「戦略を構築するためのエビデンス収集」というコミュニケーションの基盤を築くことも重要となります。
前述の通り、効果的なコミュニケーションにはパーソナライゼーションがカギとなります。ただし、今までもコミュニケーションのツールとして活用されてきたメールの一斉配信や紙媒体、ビデオなどでは、それぞれの従業員に合わせたメッセージのカスタマイゼーションに限界があります。また、工場・店舗などの現場を持つ企業では、全ての従業員が会社支給のPCを所持していない場合もあり、組織から発信された情報がすべての従業員に十分に伝わっていない可能性があります。これを解決するためには、当社のEmbarkのような従業員グループごとにカスタマイズでき、かつ誰でも容易にアクセスができるプラットフォームの構築が重要なポイントとなります。
Embarkは、従業員セグメントごとにカスタマイズされた情報を見られる社内サイトであり、PCおよびモバイルの両方に対応している為、出先や個人PCの無い場合でも、すぐに必要な情報が一元管理されているプラットフォームにアクセスすることができます。
コミュニケーションの戦略を構築するためには、現状把握と課題の特定は必要条件であり、この課題設定を誤ってしまうと、その後の戦略自体が誤った方向になりかねません。そのため、戦略を構築するための前段階として、まず客観的なデータを収集し、現状を把握することが必要です。
その際に、従業員意識調査のデータに加え、定性的なデータの収集方法のひとつで、コミュニケーションの分野での研究や、マーケティングリサーチにて活用されている「フォーカス・グループ」を活用することで、ターゲットとするステークホルダーの生の声の収集やより深堀した意見を収集することが可能となります。
当社では、このフォーカス・グループというヒアリングのアプローチをオンラインかつ既存のフォーカス・グループよりもより多くの従業員からの情報を収集できる「バーチャル・フォーカス・グループ」というツールをご提供しております。これは、幅広く意見を収集できるオンラインサーベイに、よりデータの深堀ができるフォーカス・グループとリアルタイムでのAIによる分析を組み合わせたプラットフォームです。また、バーチャル・フォーカス・グループは、回答の匿名性を保つことで、参加者自身の率直な意見の共有を促し、組織と従業員の間で正直かつオープンな対話を可能とします。そして、AIのデータ分析により抽出されるインサイトは、より客観的に組織の状況を映し出す有用な情報となります。
また、フレームワークを活用することで、コミュニケーション戦略や発信するメッセージやストーリーの根拠を整理することができます。前述のポイント02や03のような伝える対象に配慮したメッセージを構築するためには、まず伝える対象を分析する必要があります。その際の効果的な方法の1つが従業員の現状と理想のEXをマッピングし、その間のギャップを明確化、そのうえで組織が目指す従業員のEXの状態に到達するためにはどのようなメッセージが従業員に効果的なのかを検討することです。その他にも従業員のニーズの特定には、ペルソナの設定などの方法も考えられます。
本記事にて紹介した4つのステップを併用することで、EXを高めるための組織による取り組みの効果を高める変革コミュニケーションを展開することができます。また、それを実践する上で、適切なメッセージを適切なオーディエンスに届けるためのテクノロジーの活用や従業員の現状把握や求められている情報、メッセージを収集し、それらを根拠としてコミュニケーション戦略を構築することは大きな意味があります。
当社では、人事制度や従業員福利厚生、退職給付制度やM&Aなど、組織の人に関わる様々な領域におけるコンサルティングサービスと変革コミュニケーションのご支援を行っております。
企業運営における人事・組織面からの総合的包括的なコンサルティングの情報提供やご支援につき、お気軽にお問い合わせください。組織と従業員の双方に変化が多く求められる時代に、今一度コミュニケーションのアプローチを見直すというのはいかがでしょうか。
※ 本記事は、ウイリス・タワーズワトソンの海外に在籍するコンサルタントにより執筆された記事を和訳し、日本のコンサルタントによる見解を追加したものです。
南洋理工大学 (NTU) 卒業後、外資系PR会社を経て2019年入社。戦略的PRのバックグラウンドを強みとし、M&Aにおける企業の文化統合や、人事制度改定、組織変革などチェンジ・マネジメントおよびコミュニケーションに関する戦略計画や実行支援を行う他、従業員エンゲージメント向上や組織開発に関連するプロジェクトにも参画。