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特集、論稿、出版物 | 企業リスク&リスクマネジメント ニュースレター

グローバル・リーディング・カンパニーのポリティカルリスク対処状況

執筆者 北代 泰久 | 2024年7月16日

WTWが毎年実施する調査において、2020年では回答者のわずか30%がポリティカルリスクを懸念していると回答していましたが、3年後の2023年には、長期化するウクライナ紛争の影響等により、50%が実際にポリティカルリスクによる損失を直接・間接を問わず経験したと回答しました。
Financial, Executive and Professional Risks (FINEX)
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ポリティカルリスクとは?

保険対象の地政学リスクのことを指します。外国政府や国営企業による契約不履行、海外企業との取引や投融資への現地政府の干渉、或いは戦争・暴動などの不可抗力(以上ポリティカルリスクと総称)から生じる投資株式・不動産、貸付金、動産及び売掛債権の損失を補償するテーラーメード型損害保険です。

<補償内容>

  • 対象リスク:投資株式や固定資産、或いは借入法人の接収、または相手国政府の法令等に基づく収用や国有化
  • プロジェクトまたは事業開始に必要なラインセンス等の相手国政府等による取消
  • 輸入・輸出の禁止
  • 連続的な政策変更等による「忍び寄る収用・権利侵害」
  • 自国政府による制裁や通商禁止令による利権の強制的剥奪
  • 補償対象:海外所有の株式や不動産などの資産や権益
  • 対象リスク:戦争や内乱、テロ、ストライキ、集団暴動、革命、クーデター等によって生じる物理的損害或いはそれに起因する融資返済不能
  • 補償対象:損害のあった資産の交換・復旧コスト
  • 対象リスク:戦争/政治的暴力(含むそのの脅威)勃発のため相手国政府より強制退去や施設へのアクセス拒否を命じられた事による投融資資産の放棄
  • 補償対象:海外に保有している株式や不動産などの投資価額と資産権利
    • 対象リスク:企業・事業の活動・運営が政治的暴力や相手国政府による収用に起因する収益の減少または費用の増加による損害
    • 補償対象:逸失営業利益・臨時費用や営業継続費用
    • 対象リスク:相手国政府の停止・延期措置による現地の通貨のハードカレンシーへの為替交換制限、或いはハードカレンシーの国外送金不能による損害
    • 利益、配当金、社内間の送金、技術移転費の支払い当の送金ができない
    • 補償対象: HQ(本社)に送金・返還されるべき資金の合計
    • 対象リスク:相手国政府や国営企業による契約違反(注:被保険者に有利な仲裁裁定結果に反した国営企業の不履行、或いは相手国政府による妨害が要件)
    • エクスポージャー: マイルストーンペイメント・着手金・解約金・前払金・等の不払い金

    ポリティカルリスク・サーベイ・レポート2024から

    WTWでは毎年、ポリティカルリスク(⇒上記参照)に対するリスクマネジメントに積極的な各業種のグローバル・リーディング・カンパニーへ、その取り組みについてインタビュー調査を実施しています。

    2020年の調査では、回答者のわずか30%がポリティカルリスクを懸念していると回答していましたが、3年後の2023年には、長期化するウクライナ紛争の影響等により、50%が実際にポリティカルリスクによる損失を直接・間接を問わず経験したと回答しました。同様に2022年には、ロシア軍がウクライナ国境に集結しているときに調査が実施されたにもかかわらず、回答者の多くは欧州よりもアジアのポリティカルリスクをより懸念していると回答していました。

    2023年と今年の第1四半期(1~3月)は、やや遅ればせながら、欧州のポリティカルリスクに対する懸念がトップになりました。過去7年間の調査結果は、回答企業の多くが2022年から2023年にかけ、何らかのポリティカルリスクに関する危機に直面したことを示唆しています。実際、今回の調査によれば、あらゆる種類のポリティカルリスクによる損失が2023年に急増しました(図1:Type of political risk losses experiences参照)。

    具体的には、ウクライナ紛争の影響は、ロシアのルーブルとウクライナのグリブナに送金制限が課された事による通貨の兌換性の低下、西側諸国の貿易制裁による損失、さらにはロシア政府による外国資本企業国有化を通じて増加しました。また、前回の調査でポリティカルリスクによる損害を被ったと回答した企業の多くは、欧州に限らずポリティカルリスクがより拡散していると感じていました。WTWが質問したすべての地政学的傾向について調査サンプルのほぼ半数が、その傾向は「大幅に強まる」と予想しました(図2:Percent saying each trend will ‘greatly strengthen’参照)。ポピュリズムや西側諸国と中国の対立などの政治的焦点をも含む地政学リスクの今後の傾向について、多くの企業担当者は悲観的に捉えていました。

    一方今年の調査では、多くの企業がポリティカルリスクによる損失は2024年に入って落ち着きを見せつつあり(注:1-3月期のみ対象)、今後の海外事業投資に対する地政学的悪影響も緩和傾向にあると回答しています。ただし、 「恐らく想定はできるが予測はできない『ブラックスワンイベント』に対する認識が高まっており、従いこの種のイベントをどのように想定し、そのような場合に耐性を発揮する企業システムをどのように構築するかについての認識も高まっている」と、米国の食品・飲料業界のインタビュー対象者は述べています。

    また、ヘルスケア業界のインタビュー対象者は「数年前の地政学的リスクは、例えば継続的リスクモニタリングによりある程度の予想が可能でしたが、それでもCOVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の長期化とその影響までは予想できませんでしたし、今後の台湾海峡や南シナ海での紛争勃発の影響回避には消極的なリスクモニタリングではリスクマネジメント困難との考え方が、社内で認識・共有された事が重要です。」と述べています

    2023年と今年第一四半(1~3月)期は、やや遅ればせながら、欧州のポリティカルリスクに対する懸念がトップになりました。過去7年間の調査結果は、回答企業の多くが2022年から2023年にかけ、何らかのポリティカルリスクに関する危機に直面したことを示唆しています。実際、今回の調査によれば、あらゆる種類のポリティカルリスクによる損失が2023年に急増しました
    図1:Type of political risk losses experiences
    ウクライナ紛争の影響は、ロシアのルーブルとウクライナのグリブナに送金制限が課された事による通貨の兌換性の低下、西側諸国の貿易制裁による損失、さらにはロシア政府による外国資本企業国有化を通じて増加しました。また、前回の調査でポリティカルリスクによる損害を被ったと回答した企業の多くは、欧州に限らずポリティカルリスクがより拡散していると感じていました。WTWが質問したすべての地政学的傾向について調査サンプルのほぼ半数が、その傾向は「大幅に強まる」と予想しました。
    図2:Percent saying each trend will ‘greatly strengthen

    確かに前回調査時のポリティカルリスクと地政学的傾向に関するがパニック的な見方は弱まりましたが、今回の調査では回答者の30%が「地政学的紛争」が今後大幅に悪化すると見ており、他の地政学的傾向についても約15%が同様に悪化すると考えています。同時に回答者はポリティカルリスクについて楽観的ではなく、96%が2024年に入って新しいポリティカルリスクマネジメント機能を追加したと述べています。また、70%以上がポリティカルリスクによる損失を経験しており、また、大多数がアジア、ヨーロッパ、ロシア、中東、北米でのポリティカルリスクを特に懸念していると報告しています。

    このインタビュー結果は、従来のグローバル基準に基づく地政学秩序の終焉を意味しているものと思われ、地政学は従来に増して不安定・不確実になりつつあります。大多数の回答者は、地政学的紛争、経済ナショナリズム、民主主義の後退、ポピュリズムなどのトレンドが今後更に増加すると予想しています。回答者は、グローバル化を推進する限りポリティカルリスクによる損失は不可避と認識していますが、具体的に回答者は何を懸念しているのでしょうか?

    「これらすべてに関連する最大の課題は内部にあります。ビジネス リーダーは西側諸国がいかに不安定になっているかを理解していない為、この脅威を軽減することは困難です。彼らは、数十年にわたる比較的安定した状況の中で世界についての仮説と理解を作り上げてきので、当時成功を可能にした海外投資計画と戦略がもう通用しないということを理解できないのです。」と鉱業セクターのインタビュー対象者は回答しました。

    広範なアンケート調査に加え、より詳細なインタビュー結果の要約は以下のグラフの通りですが、調査結果の詳細レポート“How are leading companies managing today’s political risks? (2024 Survey and Report)” は、当社サイトこちらのページの下部よりPDF版をダウンロード頂けます。

    回答者はポリティカルリスクについて楽観的ではなく、96%が2024年に入って新しいポリティカルリスクマネジメント機能を追加したと述べています。また、70%以上がポリティカルリスクによる損失を経験しており、また、大多数がアジア、ヨーロッパ、ロシア、中東、北米でのポリティカルリスクを特に懸念していると報告しています。
    図3:At a glance
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