保険対象の地政学リスクのことを指します。外国政府や国営企業による契約不履行、海外企業との取引や投融資への現地政府の干渉、或いは戦争・暴動などの不可抗力(以上ポリティカルリスクと総称)から生じる投資株式・不動産、貸付金、動産及び売掛債権の損失を補償するテーラーメード型損害保険です。
WTWでは毎年、ポリティカルリスク(⇒上記参照)に対するリスクマネジメントに積極的な各業種のグローバル・リーディング・カンパニーへ、その取り組みについてインタビュー調査を実施しています。
2020年の調査では、回答者のわずか30%がポリティカルリスクを懸念していると回答していましたが、3年後の2023年には、長期化するウクライナ紛争の影響等により、50%が実際にポリティカルリスクによる損失を直接・間接を問わず経験したと回答しました。同様に2022年には、ロシア軍がウクライナ国境に集結しているときに調査が実施されたにもかかわらず、回答者の多くは欧州よりもアジアのポリティカルリスクをより懸念していると回答していました。
2023年と今年の第1四半期(1~3月)は、やや遅ればせながら、欧州のポリティカルリスクに対する懸念がトップになりました。過去7年間の調査結果は、回答企業の多くが2022年から2023年にかけ、何らかのポリティカルリスクに関する危機に直面したことを示唆しています。実際、今回の調査によれば、あらゆる種類のポリティカルリスクによる損失が2023年に急増しました(図1:Type of political risk losses experiences参照)。
具体的には、ウクライナ紛争の影響は、ロシアのルーブルとウクライナのグリブナに送金制限が課された事による通貨の兌換性の低下、西側諸国の貿易制裁による損失、さらにはロシア政府による外国資本企業国有化を通じて増加しました。また、前回の調査でポリティカルリスクによる損害を被ったと回答した企業の多くは、欧州に限らずポリティカルリスクがより拡散していると感じていました。WTWが質問したすべての地政学的傾向について調査サンプルのほぼ半数が、その傾向は「大幅に強まる」と予想しました(図2:Percent saying each trend will ‘greatly strengthen’参照)。ポピュリズムや西側諸国と中国の対立などの政治的焦点をも含む地政学リスクの今後の傾向について、多くの企業担当者は悲観的に捉えていました。
一方今年の調査では、多くの企業がポリティカルリスクによる損失は2024年に入って落ち着きを見せつつあり(注:1-3月期のみ対象)、今後の海外事業投資に対する地政学的悪影響も緩和傾向にあると回答しています。ただし、 「恐らく想定はできるが予測はできない『ブラックスワンイベント』に対する認識が高まっており、従いこの種のイベントをどのように想定し、そのような場合に耐性を発揮する企業システムをどのように構築するかについての認識も高まっている」と、米国の食品・飲料業界のインタビュー対象者は述べています。
また、ヘルスケア業界のインタビュー対象者は「数年前の地政学的リスクは、例えば継続的リスクモニタリングによりある程度の予想が可能でしたが、それでもCOVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の長期化とその影響までは予想できませんでしたし、今後の台湾海峡や南シナ海での紛争勃発の影響回避には消極的なリスクモニタリングではリスクマネジメント困難との考え方が、社内で認識・共有された事が重要です。」と述べています
確かに前回調査時のポリティカルリスクと地政学的傾向に関するがパニック的な見方は弱まりましたが、今回の調査では回答者の30%が「地政学的紛争」が今後大幅に悪化すると見ており、他の地政学的傾向についても約15%が同様に悪化すると考えています。同時に回答者はポリティカルリスクについて楽観的ではなく、96%が2024年に入って新しいポリティカルリスクマネジメント機能を追加したと述べています。また、70%以上がポリティカルリスクによる損失を経験しており、また、大多数がアジア、ヨーロッパ、ロシア、中東、北米でのポリティカルリスクを特に懸念していると報告しています。
このインタビュー結果は、従来のグローバル基準に基づく地政学秩序の終焉を意味しているものと思われ、地政学は従来に増して不安定・不確実になりつつあります。大多数の回答者は、地政学的紛争、経済ナショナリズム、民主主義の後退、ポピュリズムなどのトレンドが今後更に増加すると予想しています。回答者は、グローバル化を推進する限りポリティカルリスクによる損失は不可避と認識していますが、具体的に回答者は何を懸念しているのでしょうか?
「これらすべてに関連する最大の課題は内部にあります。ビジネス リーダーは西側諸国がいかに不安定になっているかを理解していない為、この脅威を軽減することは困難です。彼らは、数十年にわたる比較的安定した状況の中で世界についての仮説と理解を作り上げてきので、当時成功を可能にした海外投資計画と戦略がもう通用しないということを理解できないのです。」と鉱業セクターのインタビュー対象者は回答しました。
広範なアンケート調査に加え、より詳細なインタビュー結果の要約は以下のグラフの通りですが、調査結果の詳細レポート“How are leading companies managing today’s political risks? (2024 Survey and Report)” は、当社サイトこちらのページの下部よりPDF版をダウンロード頂けます。